カタカナが覚えにくい理由|ディスレクシア(発達性読み書き障害)のカタカナ学習

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【記事執筆者】

株式会社 宮﨑言語療法室   言語聴覚士 宮崎圭佑

学習障害(ディスレクシア,算数障害) への触覚学習利用を専門としています。【経歴】京都大学大学院 人間健康科学系専攻 脳機能リハビリテーション科学分野卒業,医療機関,京都大学医学部付属病院 精神科診療部を経て宮﨑言語療法室(株)を開業 

 

読み書きに課題を抱える小学生のお子さんのお話を聴くと「カタカナがなかなか定着しない」「いくつか覚えていないカタカナがある」など、カタカナ学習の困難をお話される保護者の方は多い印象です。

また、青年期以降の大人ディスレクシアの方でも「今でもカタカナが思い出せない時がある」「カタカナを思い出すのに時間がかかる」というお話もよく聞きます。

 

一般的な傾向として「平仮名」よりも「カタカナ」の方が苦手と感じる人は多いようです。どうしてカタカナは難しいのでしょうか?平仮名もカタカナも同じ音を表すシンプルな文字です。不思議ですよね。

この記事では「カタカナ」の学習が平仮名よりも難しい理由について解説します。

 

カタカナは平仮名よりも難しいのか?

カタカナも平仮名は、どちらも1文字1音の結びつきからなる文字です。同じくらいシンプルな形をしています。では何故「カタカナの方が覚えにくい」と感じる人が多いのでしょうか?

実際に、2009年に野口らが調べたカタカナ習得に関する調査では、小学校1年生時点でのカタカナ清音の習得率は35個/45個で78%で、その後、 1~2 年生の 2 年をかけてかなりのレベルが、そして 3 年生でほぼ習得され、4 年生で完全に習得されていく事を報告しています。これは小学校1年生段階で、ほぼ100%近い習得率となる平仮名(清音)に比べると、カタカナの習得は、かなり遅いと言えるでしょう

また小学生の「読み」に困難を抱える児童を調べた宇野(2004年)らの調査でも、ひらがな1%、カタカナ2~3%、漢字5~6%と、平仮名よりもカタカナ読みの困難が多いことが報告されています。

全体の傾向として「カタカナは平仮名より難しい」というのは事実だと考えられます。

 

カタカナが難しい背景理由

カタカナが平仮名より難しい背景は「記憶想起メカニズムの違い」と「文字を学ぶ順序、頻度、日常で接する頻度の差」が影響していると考えられます。

 

字形の違いによる想起メカニズムの違い

 

ディスグラフィア(書字障害)の脳内メカニズム

平仮名とカタカナは同じ音を表しますが、字のカタチ(字形)が大きく異なります。

平仮名は一筆書きで書ける文字が多く、ぐるりと手の運動が文字になったような印象を持つのではないでしょうか。カタカナは、ストロークの向きや位置で違いを表す文字です。何となく、カクカクした記号的な印象の文字と言えます。

平仮名を思い浮かべる時には、「音の情報」と「書字運動イメージ」との結びつきがとても大切になります。平仮名は「あ」と音を思い浮かべると、手で書く動きのイメージで字形「あ」が浮かびます。(脳機能レベルでは、角回や縁上回で音と字形を結び付けて、頭頂間溝で書字運動を想起、前頭葉の運動野で実際の書字運動として出力します)

一方で、カタカナの想起過程を調べた脳機能研究はありませんが、漢字の基本パーツとなる事から考えて、少し漢字に似た思い出し方をする文字だと推測できます。

漢字の場合は、まず最初に頭の中で漢字のカタチ(字形)を思い浮かべえて、それを音と照らし合わせてから、書き写すプロセスで書字想起を行います。(脳機能レベルでは、紡錘状回で文字を形態として想起して、角回で音との整合性を確認した後で頭頂間溝に情報を送ります)

カタカナも漢字と同じく、一度頭の中で字形を思い浮かべるプロセスが重要だと考えられます。例えば「サ・リ」「ツ・シ」など似たカタチだけど、ストロークの本数や向きの違いで判別する文字を正確に想起するには、一度頭の中で文字を思い浮かべてから、違いを再認識別する過程が不可欠だと考えます。

カタカナ習得が平仮名より難しいのは、この字形の視覚性記憶の想起⇒字形の再認識別に伴う認知的負担が平仮名より大きいからだと考えられます。

 

カタカナの学習頻度,使用頻度の違い

一般的にカタカナよりも先に平仮名を習います。文字と音の結びつきをまず平仮名で学んでから、同じ音に対して、異なる字形(カタカナ)の結びつきを学ぶのです。同じ音との結びつきならば、先に「文字⇔音」間の連合記憶形成が成立した文字の方が有利に記憶定着する可能性が考えられます。

学習時間も平仮名の方がカタカナよりも多く割かれます。日本では高頻度で利用される読み書きの主役は「平仮名」であり、カタカナは補助的な扱いの文字ではないでしょうか。さらに日常生活でもカタカナ単語は溢れていますが、文章自体は平仮名と漢字を中心に書かれており、より高頻度に接するのは平仮名と言えるでしょう。

このような平仮名とカタカナ間の学ぶ順番、学習時間、利用頻度などの差が、カタカナ定着の差にも影響していると考えられます。

 

ディスレクシア児童のカタカナ習得

一般的にディスレクシア児童は平仮名よりも、よりカタカナが苦手な傾向があります。カタカナがなかなか定着しない」「カタカナを一度覚えても忘れる」などのご相談は多いです。

これは文字のカタチ(字形)の視覚性記憶過程に弱さを持つディスレクシア児童が多く、カタカナの頭の中で文字のカタチ(字形)を想起⇒再認識別するプロセスの負担が大きいからと推測されます。(ディスレクシア児童を調べた研究では、多くの児童に視覚性記憶の弱さが確認されました⇒)

カタカナの多くは「漢字」の基本パーツとしても利用されるので、カタカナ学習の苦手さは、漢字習得の苦手さの予測指標となります。(漢字やカタカナが繰り返し書いても覚えにくい背景として、平仮名と比べて手の運動記憶イメージを形成しにくい字形である事などの理由も考えられます)

 

視覚‐(触覚)‐聴覚を利用したカタカナ習得法について


どのような方法が最もカタカナ定着に繋がるのか、模索してきましたが、私が考える方法は以下です。

① 触るグリフは立体化された字形に「見ながら触れて音読」するので、手で触れて確かめる事で、より字形の記憶が精緻かつ強固に形成されます。

② YouTubeにアップしているカタカナの「音」が鳴るにつれて、ジワジワと字形が浮かび上がる映像を見ながら、触るグリフに触れる事で、字形の触覚イメージを中継刺激としてカタカナの「視覚情報」と「音韻情報」の連合記憶形成を促します。

③最後に、①②で触れた文字を3回ほど手で書いてみると、字形のイメージを書字運動記憶で補強することができます。

その①②③のプロセスを行った後で、④一晩寝ると、入力された多感覚情報の記憶が、睡眠を挟む「レミニセンス効果」で整理統合される作用により、カタカナ定着が促されます。

 

①触るグリフに「見ながら触れて」音読する

②徐々に字形が現れる映像音源を視ながら触るグリフに触れてみる

③その文字を1回~3回手で書いてみる

④一晩寝て、睡眠を挟んで多感覚情報の整理統合を待つ

⇒翌日にテストしてみる。

 

 

 

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