ディスレクシア(発達性読み書き障害)の背景にある認知特性について
【記事執筆者】
株式会社 宮﨑言語療法室 言語聴覚士 宮崎圭佑
学習障害(ディスレクシア,算数障害) への触覚学習利用を専門としています。【経歴】京都大学大学院 人間健康科学系専攻 脳機能リハビリテーション科学分野卒業,一般医療機関,京都大学医学部付属病院 精神科診療部を経て(株)宮﨑言語療法室 開業
ディスレクシア(発達性読み書き障害)の背景として、「音韻機能の問題」「視覚認知(記憶)の問題」「自動化の問題」などが報告されています。さらに、ADHD特性との併存による注意機能や実行機能が読み書きに及ぼす影響や、DCD(発達性協調運動障害)などが書字運動コントロールに与える影響も考えられています。
2018年に宇野らが行った84名の発達性ディスレクシアの児童を対象とした研究では、音韻障害のみに問題を抱える児童は20%以下と少なく、65%以上の児童が複数の認知的な問題を併せ持つことが分かりました。また、音韻機能に問題を抱えないディスレクシア児童も20%以上存在していました。
(音声ガイダンス)
【音韻機能】文字と音(読み方)を結びつけたり、頭の中で単語の音を保持・操作する能力
【視覚認知(記憶)機能】文字の形を認知・記憶したり、文字列を一まとまりに認知する能力
【自動化能力】呼称速度のこと。文字や絵などの記号を音に変換するスピードを指す。
研究の結果は以下のように報告されています。
・音韻機能のみ問題を抱える【PA群】13 名(15.5 %)
・視覚認知(記憶)のみ問題を抱える【VC群】9 名(10.7 %)
・自動化のみ問題を抱える【AT群】7 名(8.3 %)
・「音韻機能」と「視覚認知(記憶)」に問題を抱える【PA+VC群】17 名(20.2 %)
・「音韻機能」と「自動化」に問題を抱える【PA+AT群】17 名(20.2%)
・「視覚認知(記憶)」と「自動化」に問題を抱える【VC+AT群】3 名(3.6%)
・「音韻機能」「視覚認知(記憶)」「自動化」の3つに問題を抱える【PA+VC+AT群】18 名(21.4%)
ディスレクシア(発達性読み書き障害)の認知特性とは、「音韻機能」「視覚認知(記憶)」「自動化能力(呼称速度)」の弱さが組み合わさって成る「機能的スペクトラム」状態であると考えられます。
特に日本語圏においては、仮名は音韻への負担が少ない文字です。その一方で、漢字は視覚認知(記憶)への負担が大きいため、視覚認知(記憶)機能の影響が大きいと考えられます。
ADHDなど他の発達障害との併存
(音声ガイダンス)
発達性ディスレクシア含むSLDのと特性と、ADHDなど他の発達特性との併存割合の高さが知られています。
ADHD に併存する SLD の特徴を調べるため、国立精神・神経医療センターのSLD の患者 120 名をもとに行った研究では、SLD+ADHD(64例,53%)、SLD+ASD(12.5%)となりました。(※ADHD併存群ではASDは25%)
ADHD併存群のSLD分類では(読字障害 62%、書字障害 35%、算数障害 3%)単独例のSLD分類では(読字障害 73%,書字障害 27%)となり、ADHD併存群の方が書字障害が強い傾向が確認されました。
ADHD 併存群では不注意優勢は 45% で、一般的なADHD群に比べて不注意の問題が目立つ傾向が確認されました。これらの報告からADHD の併存する SLD は,以下のタイプが考えらます。
(1)ADHD の多動衝動性が強く,学習に取り組めないタイプ
(2)目と手の協応が悪く、字が粗雑で、書字の困難感が強い(DCD を併存も多い)タイプ
(3)読字障害だが,不注意優勢型 ADHD で,不注意が目立つ タイプ
ADHD併存群では、SLDの特性に加えて、ADHD特性などと関係する注意、実行機能、ワーキングメモリなどの問題が複雑に組み合わさると考えられます。
ディスレクシアの認知的背景(まとめ)
ディスレクシアは、読み書きに関係する複数の認知機能の弱さの組み合わせからなる「機能的スペクトラム」であることが分かります。
さらにADHDやASDなどの影響を及ぼす発達障害との併存も多く、児童ごとに異なる複雑な状態を示します。
特に読み書き機能の背景にある「音韻機能」「視覚認知(記憶)」「自動化能力(呼称速度)」などの認知特性の弱さは、併せ持つ割合の高さから、独立事象なのではなく、何らかの脳機能ネットワークのレベルでの因果関係があると推測されます。
ディスレクシアの認知機能の成り立ちやメカニズムは、まだ分かっていない事が多いですが、これらの研究から、児童ごとの個人特性に合わせた指導や支援が求められる事が分かります。