子供のディスレクシア(読み書きの学習障害)について

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【記事執筆者】

サワルグリフ代表  言語聴覚士 宮崎圭佑

学習障害(ディスレクシア,算数障害) への触覚学習利用を専門としています。【経歴】京都大学大学院 人間健康科学系専攻 脳機能リハビリテーション科学分野卒業,一般医療機関,京都大学医学部付属病院 精神科診療部を経てサワルグリフ開業 


 

ディスレクシア(発達性読み書き障害)は、文字の読み書きに困難を抱える学習障害です。原因は、脳の機能不全が認知に影響を及ぼすことで、文字が上手く読み書きできない状態です。

英語圏ではディスレクシアは人口の10%〜15%と多く、主に「読み」を中心とした症状を示すと言われています。一方で、日本語圏ではディスレクシア人口は5%未満と少なく、読みだけではなく「読み書き」を中心とした症状を示すのが特徴です。そのため、日本ではディスレクシアは、読みだけではなく、書字の問題も含めた症状として「発達性読み書き障害」と呼ばれています。

 

日本語圏のディスレクシアの特徴

英語圏と比べると、ディスレクシアは日本では少なく見積もられていますが、日本語の仮名は音と文字の対応が規則的な言語なので、ディスレクシア傾向を持つ方でもある程度は読めてしまう事と関係しています。

 

【日本における読み書き障害の割合】

児童の読み書き能力を調べた調査(安藤,2002)では、低学年では3%ですが、読み書きの課題が難しくなる4年生以降では増加し、6年生では20%の児童が十分な読み書きの能力を持たずに卒業していることが報告されています。ですので、日本においてはディスレクシアは、ある程度の文字の読み書きができる人の中にひっそりと隠れて存在している状態なのです。

 

このような潜在的に存在しているディスレクシアは、英語学習や受験勉強、仕事での文章作業など、成長するにつれて文字の読み書きで求められる難度が上がるにつれて困難が増すことが分かっています。

 

発達性読み書き障害の症状

発達性読み書き障害の特徴として、幼児期までは発達の遅れは見られないですが、ひらがな、カタカナ学習が始まる小学校低学年時に、読字・書字の難しさが現れます。

「読み」の困難は、文字を1つ 1 つ拾って読む遂字読み(拾い読み)であることが多く、 単語や文節の途中で止まってしまう、また文末を勝手に作って読んでしまう、自分の読み誤りになかなか気づかないなどの特徴があります。文字と音の対応が複雑な拗音・促音・長音などの誤りが 目立つのも特徴です。

学年が上がるにつれ仮名はほぼ習得できますが、その後も読み速度の遅さや負担、読みに伴う疲れ(易疲労性)、漢字の読み書き困難が問題となるケースが多く、文章に対する苦手意識は残ります。

 

《読みの問題》

・文字を1つ1つ拾って、ゆっくりでないと字が読めない(逐次読み)
・単語や文節の途中を区切って読む
・文中の文字を指でなぞらないと読めない
・沢山の文字や単語が狭い行間に詰まっていると読みにくい
・文字を読んでいるとすぐに疲れる(易疲労性)
・文の読みにくい箇所は読み飛ばしたり、変えて読む

 

《書く事の問題》

・カタカナや漢字を何度書いても覚えられない。
・「わ」「は」や「お」「を」など、同じ音の文字の書き間違いが多い。
・「め」と「ぬ」「雪」と「雷」などカタチが似ている文字の書き間違いが多い。
・促音(「てっぽう」の「っ」)撥音(「なんでもない」の「ん」
・二重母音(「おかあさん」の「かあ」)など特殊音節の誤りが多い。

 

読み書きに伴う疲労(易疲労性)が特に重要

 

ディスレクシアで重要な特徴として、文字の読みに時間がかかる、努力しないと読めない、読み書きに伴う疲労(易疲労性)です。読むのがシンドイので、文字を避けるようになり、語彙力や知識が身につかずに学校の勉強も遅れてしまう学業不振となります。読み書きの問題が段階的に影響を及ぼします。

 

読み書きの問題が学業不振を招く、負のスパイラルになる前に、その子にあった勉強法を行うことが大切です。私(宮崎)は、ディスレクシアに対する触読学習を利用した勉強法を実施しています。⇒参考記事『ディスレクシアの勉強法について

 

 

発達性読み書き障害(ディスレクシア)の脳機能

ディスレクシア(難読症・読字障害)の原因は、文字や綴りを頭の中で音(読み)を引き出して紐付ける「デコーディング能力」と、文字列を単語として認知する「視覚辞書能力」の機能障害が考えられています。

 

ディスレクシアの脳の特性を動画に纏めていますので、ご覧ください。

 

この「デコーディング能力」と「視覚辞書」の弱さの背景にはディスレクシアの脳機能の問題があります。

fMRI(脳機能イメージング)でディスレクシアの脳を調べた研究報告では、この音韻処理に関わる「左頭頂側頭部(縁上回、下頭頂小葉)」の活動の弱さと、視覚辞書に関わる「左下後頭側頭回(紡錘上回など)」の活動の弱さが報告されています。

また、2つの機能の弱さを補う為か、下前頭回の特徴的な活動増加パターンも報告されています。

 

デコーディング能力の弱さ(頭の中で音をイメージする能力)

「デコーディング能力」とは文字を音に分解して頭の中で表象する機能のことです。私達が「ぶた」⇒「たぬき」⇒「きりん」など、シリトリができるのも、単語の語頭と語尾の「音」を頭の中で思い浮かべて引き出せるからです。ディスレクシアの人ではこれらの能力が弱いのが特徴です。

視覚辞書の弱さ(文字の形と綴りの視覚認知)

「視覚辞書」とは私達は文字を習い始めた当初は、1文字ずつ逐次読みですが、慣れてくると文字のあつまりを単語としてズムーズに認識することができます。文字の集まり情報が、単語として認識されているからです。ディスレクシアの人はこれらの機能が弱いのが特徴です。

 

ディスレクシアの文字認知メカニズム

ディスレクシアの文字認知メカニズムの問題を、私達が「おおさんしょうお」という文字を読む場合を例に説明したいと思います。まず、文字を習い始めた人(小学校1年生)などは、非語経路で文字を1文字ずつ読みます。お、お、さ、ん、し、ょ、う、お」と逐次読みします。

 

 

そして時を読むことに慣れてくると、語彙経路を使って読むようになります。文字列を一纏めの単語として視覚辞書で照合することで「おおさんしょうお」という言葉を文の中に見つけることができます。

自然と大きくて黒い生物のイメージが頭の中に浮かんで来ます。これが語彙経路(視覚辞書)を介して意味システムが働くということです。同時に音韻出力辞書から聞き覚えのある「おおさんしょうお」という「」が引っ張り出されて、単語の読み方が頭に浮かぶのです。

以上をまとめますと、私達は①文の中にある見覚えのある単語を見つける(視覚辞書)、②そのイメージを浮かべてる(意味システム)、③それに呼応する聞き覚えのある読み方(音)を引き出す。という①⇒②⇒③のプロセスで文章を読んでいるのです。

 

小枝達也、関あゆみ著書「T式ひらがな音読支援」から参考

 

つまり文字を読むことに慣れえいる私達は、1文字ずつ確認して読む必要がないのです。しかし、ディスレクシアの場合は、視た単語を自動的に検出する「視覚辞書」と、ズムーズに文字や単語の読み(音)を引き出す「音韻処理能力」が弱いので、意識的に文字に注意を向けて、なんとか文字‐音韻変換で「お、お、さ、ん、し、ょ、う、お」と逐次読みするのです。

この読むときの負担の大きい頭の使い方が、ディスレクシア児童の読みの疲れ(易疲労性)に繋がっています。

 

動画でわかる子供の発達性読み書き障害(ディスレクシア)

 

この記事の内容は、You Tube解説動画として簡単にまとめています。

 

 

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