ディスレクシア(難読症・読字障害)と漢字学習について

ある小学1年生のディスレクシアの児童は、という漢字を「わんこ」と読みました。

犬という漢字が、自宅で飼っている犬の「わんこ」というネーミングを連想させたのでしょう。

また、小学5年生になるディスレクシア児童が読める漢字は、2年生で習う漢字の約半分でした。

書くことは読みよりも一層難しく、1年生で習う漢字の半分ほどしか書けませんでした。

一般的にディスレクシアの児童にとって「漢字」は「仮名(ひらがな、カタカナ)」以上に苦手です。

ディスレクシアの児童は、ひらがな、カタカナをなかなか覚えようとしませんが特に「漢字」の読み書きを覚えようとしません。

仮名の読み書きはある程度はできるようになっても、漢字の読み書きは苦手な児童は沢山います。

どうしてディスレクシアの児童にとって「漢字学習」はこれほど難しいのでしょうか?

この問題は「漢字自体の性質」の問題と、「ディスレクシアの原因メカニズム」の関係から理解することができます。

 

ディスレクシア(難読症・読字障害)とは?

ディスレクシア(難読症・読字障害)は、文字の「読み」に難しさを持つ学習障害の1つです。

2013年に改定された「米国精神医学会の診断基準(DSM-5)」では、学習障害のなかで文字を読むことに限定した特徴的な症状を示すタイプの障害と定義されています。

ディスレクシアの人口割合は5%〜15%前後と報告されており、文字と音との関係がシンプルな日本語やイタリア語圏などでは5%未満で、複雑な英語圏などでは15%前後と多く報告されています。

近年の脳機能レベルの研究では、ディスレクシアの原因は、文字と音を頭の中で結びつける「音韻処理(デコーディング)」の能力の弱さが、文字のまとまりを単語として認知する「視覚辞書能力の弱さが原因と考えられています。

つまり、文字や文字列を見ても、それが自然と頭の中で「読み方(音)」のイメージとして浮かび上がらないのです。

また文字列が綴りとして、上手く認知できない問題もあります。

日本では比較的少ないディスレクシアですが、文部科学省の全国調査(2012年)では、通常の学級に在籍している子供の2.4%が知的水準には問題はなくても、読み書きの問題でつまずいている事が報告されています。

また別の調査(安藤,2002)では、低学年では3%ですが、読み書きの課題が難しくなる4年生以降では増加し6年生では、文章や漢字の複雑化についていけずに、20%の児童が十分な読み書きの能力を持たずに卒業していることが報告されています。

この記事では、主にディスレクシアにとっての「漢字」の問題について説明したいと思います。

何故、ディスレクシアにとって漢字学習は難しいのか?

ディスレクシアの児童にとって仮名(ひらがな,カタカナ)以上に漢字学習が難しい理由は、ディスレクシアの原因メカニズムである「音韻処理(デコーディング)」と「視覚辞書」の問題が影響をお及ぼしています。

簡単にまとめると、ディスレクシアは頭の中で文字の集まりを単語として認知して、さらに「読み(音)」を結びつけるのが苦手なので、複数の読みパターンがあり、複雑なパーツから構成される漢字を覚えるのが難しいのです。

以下で、詳しく説明します。

漢字には複数の「読み方」がある

仮名文字は決まった1つの読み方しかありません。しかし漢字は「音読み」「訓読み」をはじめとする様々な読み方があります。

どの読み方を選ぶかは前後の文脈や熟語によって決まります。

私達は漢字の複数の読み方を「長期記憶」に記憶して、どの読み方を選ぶのかを前後の文脈で判断します。

ディスレクシアの児童は「音韻処理(デコーディング」の発達に問題を持ちます。

語音に対する認識が弱いので音の記憶がよくありません。「読み方」のパターンが長期記憶になかなか入らないのです。

また、ディスレクシアにとって難しいのは、文脈に照らしあわせて、どの読みを見つけるのか選ぶことです。

ディスラクシアは「視覚辞書」の弱さから、複数の文字が連なった時に単語としてのまとまりを見つけるのが苦手です。

通常、子供は学校に入って1年でこのスキルを身につけますが、ディスレクシアの児童は身につけられれず「逐次読み」が長く続きます。

 

漢字は文字数が多く、複雑な形態を持つ

漢字は仮名に比べて文字数が多く、小学6年間に約1000文字の漢字を学習します。

さらに漢字の多くは「部首」や「旁」などの複雑な組み合わせにより構成されます。

宇野(2015年)らの研究では、ディスレクシア児童の多くは視空間認知や視空間ワーキングメモリーの弱さが報告されています。

視覚辞書(エンコーディング)の弱さと関連した脆弱性と考えられています。

ですので、ディスレクシアの児童は、複雑な構成パターンからなる漢字を覚えるのがとても苦手なのです。

特に漢字を書くことは、読むこと異常に苦手です。中学生になる小学生レベルの漢字はほぼ読めるようになっても、書くことは覚えられずに、ひらがなで書くディスレクシア児童に出会うことは稀ではりません。

漢字の「書字」は、様々な脳の昨日が同時に、または並行して働き合う複雑な作業なのです。

 

ディスレクシアの子供が持つ漢字認知の特徴

ディスレクシアの認知は、音韻処理(デコーディング)の問題が影響を及ぼします。私達は「山」という漢字を見ると、自然と「ヤマ」という音が貼り付いていますが、この文字と音の結びつきが弱いのです。

漢字の「読み」では、この語音の認識と記憶の弱さから、複数の読み方(山:ヤマ・サン・ザンなど)を覚えることが難しく、この読みのパターンを長期記憶に入れることも苦手としています。

さらに視覚辞書(エンコーディング)の弱さも影響を及ぼします。「田」+「力」で「男」であり、「亻」+「本」「休」ですが、このように形が似た文字を認識する事、複雑な部首、旁のパーツのまとまりを1つの文字と認識する事などを苦手としています。

パーツの組み合わせを、1つの文字のまとまりとして認知できないので、ディスレクシアの児童は漢字の書き方は特徴的です。

通常の「書き順」に沿うパーツごとの書き方ではなく、全体を模様のように写し描きを行います。

ディスレクシアの漢字訓練では、漢字が1つ1つのパーツ(部首・旁・偏など)の組み合わせから成り立つことを覚える事が重要です。また1つの漢字が持つ「読み方」の複数のパターンを仮名(ひらがな、カタカナ)でインプットした上で、漢字学習で繰り返し結びつけることが指導が重要となります。

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