日本人の英語ディスレクシア(難読症・読字障害)について

 

動画「日本人の英語ディスレクシアは存在するのか?」にまとめています。

ディスレクシアの方にとって英語学習はもっとも苦手な課題となります。

日本語の読み書きに問題がなくても、小学校高学年以降の英語学習で特別な難しさが現れるケースは少なくはありません。

他の科目の成績と比べて、英語が壊滅的に苦手な子や、英語だけは何度見直しても綴りが覚えられになど、様々な悩みがあります。

また、日本語圏と比べてアメリカやイギリスなどの英語圏では、多くのディスレクシアが報告されています。

どうやら「英語」はディスレクシアにとって特別苦手とする言語のようです。

ディスレクシアにとっての「英語学習」の特別な難しさは「ディスレクシア特有の認知」と「英語自体の性質」の2つの問題の関係性から説明することが出来ます。「英語とディスレクシア」の関係について、そもそものディスレクシアの定義と原因メカニズムから説明したいと思います。

 

英語圏と日本語圏のディスレクシア人口の差

ディスレクシアの人口割合は「言語」により大きく異なります。低学年児童を調べた宇野ら(2004年)の調査ではひらがな(1%),カタカナ(2〜3%),漢字(5〜6%)、日本ではディスレクシア傾向を持つ児童は5%未満の割合となっています。

その一方で、米国3〜10%(スノウリング,2000年)、英国5〜17%(シェイウイッツ,1998年)、ドイツ 5%(1997)、イタリア2%(1969)と報告されています。

日本は5%未満なのに対して、英語圏では10%〜15%前後とディスレクシア人口が多いのが特徴です。

また同じアルファベット圏であるドイツ語やイタリア語と比べても、英語圏のディスレクシア人口は多く報告されています。

 

ディスレクシアの原因について

ディスレクシアの認知と脳機能については動画で詳しく解説しています。

ディスレクシアは脳の機能不全が原因と考えられています文字と音を結びつける音韻処理能力と、目で見た文字列を単語として認識する視覚辞書の弱さだと考えられています。脳機能イメージング研究では、音韻処理能力の弱さは左頭頂側頭部(縁上回)、視覚辞書の弱さは下後頭側頭回(紡錘状回)などの機能低下として報告されています。

 

英語圏にディスレクシアが多い理由

ディスレクシアの原因メカニズムから分かる、英語圏にディスレクシアが多い原因はこの音韻処理能力の負担にあります。

結論から言うと、英語は日本語と比べて、ディスレクシアの人が苦手とする「視覚辞書」と「音韻処理」にかかる負担大きいのです。

例えば、日本語の単語の発音は、文字(仮名)と音が1対1で対応します。日本語の場合は「りんご」は「り=」「ん=」「ご=」とそのまま文字の読み方を並べただけです。

日本語は、モーラ(拍)と文字が1対1で対応する極めて習得しやすい言語と言えるでしょう。

しかし、英語は、文字(アルファベット)と単語の読み(フォニックス)は、非対応です。英語のapple(æpl)の読み方はで、個々の文字「a」「p」「l」「e」と異なる音が結びついています。つまり、英単語を読むには、日本語の仮名ように、文字の音をそのまま結びつけるだけでは読むことが出来ないのです。

1つ1つのアルファベットの綴りを精確に認識して、その綴りに対応する音(フォニックス)を結びつける必要があります。

この英語の読字にもとめられる「視覚辞書」と「音韻処理」の負担の大きさが、英語圏でディスレクシアの人口比が多い理由だと考えられています。「文字」と「音」の対応関係がシンプルで明快な言語ほど、ディスレクシアは少ない傾向にあります。

例えば、文字と音の対応関係が比較的良いイタリア語やスペイン語などは、同じアルファベット圏でも英語よりもディスレクシアは少なく報告されています。

 

日本人の英語ディスレクシア

一般的に日本人であってもディスレクシア傾向の認知的な弱さを持つ人の「英語学習」はとても難しいことが知られています。

日本語の仮名や漢字の読みはクリアできていても、潜在的なディスレクシアの傾向(認知の弱さ)を持つ人達は、この青年期以降の英語学習で躓くことが多いのが実情です。以下のような英語の学習困難が報告されています。

 

・他の科目に比べて、著しく英語が苦手である。
・単語を覚えてもすぐに忘れる。綴りを覚えられない。
・英語の長文をいくら努力してもスラスラ読めない
・英語の長文を読んでいると頭がとても疲れる
・長い単語、似た単語同士などを見ていると、綴りが混乱する
・全体的に文量の多い英語文がボヤけて見える。
・いくら覚えても英単語の書き間違いがある

 

日本人の英語ディスレクシアの背景

ディスレクシア傾向を持つ人達が英語学習に著しい困難を示す理由は「日本語と英語の言語の性質の違い」と「英語が外国語であること」の2つの要因が考えられています。

 

日本語と英語の言語性質の違い

英語は日本語と比べて、文字と音の対応関係が複雑な言語であると説明しました。

この英語の性質が、ディスレクシアの人が苦手とする「音韻処理(デコーディング)」の大きな負担となり、潜在的な認知の弱さをもつ彼らには大きなハードルとなります。

シンプルな文字と音の対応関係である日本語の仮名・漢字の読みはクリアできても、より複雑な対応関係が求められる英語の読みでは、頭の中で文字を音として捉えられずについていけないのです。

 

英語が外国語である問題

また英語が日本人にとって、母語ではなく外国語であることも大きく関係しています。母語の場合は、予め会話をとおして頭の中に語彙がインプットされています。

しかし、英語は外国語なので、単語の「読み方」と「意味」を1つ1つ覚えなければなりません。ディスレクシアの方は頭の中で文字と読み方(音)を結びつけるデコーディング能力が弱いので、新たに外国語の単語を学ぶことはとても難しいのです。

もちろん、新たに外国語の語彙を覚えることが難しいのは、全ての人に通じることです。ただし、音韻処理や視覚辞書の能力が弱いディスレクシアの方の場合、その学習ハードルを超える難しさは普通の人とは比べられないほど大きいのです。

 

英語ディスレクシアの対処方法

 

当教室では、日本人の英語ディスレクシアに対して触読版(サワルグリフ)を利用した専門的な訓練プログラムを行っています。アルファベットの形と、その文字列パターンである綴りを、先に触覚学習を介して記憶形成することで、並行して行なう音読を中心としたのデコーディング訓練をより効果的に行います。

日本人は英語学習に苦手意識を持つ人が多いので、ただの「苦手意識」とディスレクシアが引き起こす「障害」の境界線は曖昧です。英語に対する困難が気になる場合は、お気軽にご相談ください。

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