ディスグラフィア(発達性の書字障害)の症状と原因について
【記事執筆者】
株式会社 宮﨑言語療法室 言語聴覚士 宮崎圭佑
学習障害(ディスレクシア,算数障害) への触覚学習利用を専門としています。【経歴】京都大学大学院 人間健康科学系専攻 脳機能リハビリテーション科学分野卒業,医療機関,京都大学医学部付属病院 精神科診療部を経て宮﨑言語療法室(株)を開業
この記事ではディスグラフィア(発達性の書字障害)について解説したいと思います。
ディスグラフィアは「読みに問題がない」もしくは、読みに軽度の苦手さはあるけど「特に書字に苦手さがある」場合に使われる言葉です。症状を表す言葉としても使われますし、診断名としても利用されます。
「読めないけど書ける」人はほぼ存在しませんが「ある程度は読めるけど書くことが苦手」な方は一定数おられます。STRAW-Rなど「読み」と「書字」の両方が評価できる検査で、読みは平均域であるけど、書字は著しく苦手である場合などはディスグラフィア(発達性の書字障害)という言葉で状態を表します。
『精神疾患の診断・統計マニュアル(第5版)』では限局性学習障害のうちの1つとし、以下のように定めています。
日本精神神経学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』2014年
315.2(F81.81) 書字表出の障害を伴う
綴字の困難さ
文法と句読点の正確さ
書字表出の明確さまたは構成力
日本では画数が多く複雑な「漢字」の書字で困難を抱えるお子さんが多く、欧米の書字障害とは異なる特徴もあります。特にカタカナや漢字などで多いのが特徴です。
「文字を書こうとしてもカタチが思い出せない」
「文字を書くと崩れる」
「枠からはみ出てズレていく」
「読み方が文字のカタチが類似した別の文字を書いてしまう」
など、様々な書字の問題があります。
書字障害を巡る日本の独自事情 (宮﨑の雑感)
日本語圏のディスレクシアは、「仮名」が文字と音の対応関係が良くて、読みやすい文字言語なので「ある程度は読める」状態の中で、読み書きの困難を抱えているケースが多いです。逆に言うとある程度は読めているので「読みの問題」が見落とされやすい。
一方で「漢字」はとても書くことが難しい文字なので、何度書いても覚えられなかったり、書くと崩れるなど「漢字の書字」を介して顕在化する傾向があります。
本当に書字だけの問題なのかを読みも含めて検査することが大切です。
特に近年では手で書く作業は減っていますが、読む課題は増えていますので「読み」の能力は「書字」以上にとても重要になります。
書字の脳内メカニズムとディスグラフィア
書くことが苦手な原因は様々ですが、文字を書く脳内認知過程の何処かに課題があり、書字が苦手だと考えられます。
「ひらがな」書字の場合
① 角回や縁上回(下頭頂小葉)で、音を文字の形態として想起
② 頭頂間溝で書字運動を想起
③前頭葉に伝わって補足運動野や運動前野にて「書字運動」として出力されます。
一方で「漢字」の場合は側頭葉の紡錘状回で文字を形態(カタチ)として想起して、角回で音との整合性を確認した後で頭頂間溝に情報を送ります。
その他にも、書くときの文字の配列や文法には ④ブローカ野が関係します。さらに書字運動時の文字の大きさの決定には大脳基底核が関わります。
ディスグラフィア(発達性の書字障害)の多くは、こらら書字に関わる一連の認知過程の何処かに問題があり、文字が思い出せなかったり、上手く書けない状態といえます。
書字困難の原因となる認知過程
宮﨑(個人)の見解ではありますが、ディスグラフィア(発達性の書字障害)の原因を分類してみました。実際は、①〜④の問題は、組み合わさり混在している場合もあります。
① 視覚性記憶の形成または想起に伴う書字困難
一般的なディスレクシア(発達性読み書き障害)の児童に多いタイプの書字困難です。頭の中で文字の形状(カタチ)が思い浮かばないので、漢字やカタカナが書けない書字困難です。
ディスレクシア(発達性読み書き障害)の児童の視覚認知機能を調べた研究では多くの児童が文字や図形を覚える視覚性記憶に弱さを持つと報告されています。
頭の中でシャープに文字形状の記憶が形成&想起されていない事で、上手く書字が出来ない状態です。
視覚性記憶の課題による書字の想起困難はカタカナや漢字などの文字で目立ちます(カタカナや漢字の書字では、文字のカタチを思い浮かべてから音との整合性を確かめるから)
文字を思い出せないだけではなく、シャープに文字形状が思い浮かばないので、文字自体も崩れている場合が多いです。漢字を書く時は規則性のある書き方ではなく、ランダムな模様を描くような書き方で書き写します。
② 書字運動イメージの形成、想起の困難
こちらの「読み障害を伴わず,書字の習得障害を示した小児の 1 例」のように、何らかの理由で文字を手で書く「書字運動イメージの形成」が難しかったり、また文字の読み(音)と書字運動イメージの結びつきが弱かったりすることで、すぐに文字の書き方が分からない状態です。
上手く書字運動イメージを利用できないので文字も崩れてしまいます。
③構成方略の習得または利用の困難
漢字の構成的な書き方(構成方略)が習得できない、または構成方略を利用できないことにより、細部を構成要素ごとに再生できずに、上手く漢字が覚えられなかったり書けないなどの問題もあります。
漢字などの複雑な文字では構成方略(複数の文字パーツの組み立て方)大切になってきます。この構成方略の形成が未熟だと、上手く頭の中で文字の情報を整理できないので、漢字を覚えたり書くことが苦手となります。
④ 書字運動自体の不器用さ
発達性協調運動障害(DCD)などに関連した手先の不器用さが影響して、上手く文字が書けないケースです。安定して鉛筆を動かすことが出来ずに頭に思い浮かべた文字を書いても崩れてしまいます。枠からはみ出てズレていくなど文字の空間的な配置が困難な場合もあります。
背景には何らかの脳機能の問題により、運動−感覚情報を上手く統合して書字運動をコントロールすることの難しさがあります。
触るグリフによる文字学習
触るグリフは「見ながら触れて音読する」触読版シートです。立体文字を手で触れて確かめることで、文字のカタチの記憶イメージを形成することを得意としています。触覚−視覚間の情報は紡錘状回で統合されてマルチモーダルイメージを形成しますので、精緻かつ強固な文字の形状(カタチ)の記憶が形成できます。
漢字に関しては
①立体文字に見ながら触れて音読する
②目を閉じて触れてカタチを思い浮かべる
③思い浮かべた文字を空書(指文字)で書いてみる
という「文字形状イメージ①,②」⇒「書字運動イメージ③」へと繋げる流れで記憶定着させていきます。
文字のカタチの記憶が形成されるので、①視覚性記憶の形成&想起に伴う書字の問題に対しては、直接的な効果を示す場合が多いです。また文字のカタチの記憶が定着することで、②書字運動イメージの形成、③構成方略の形成も、いくらかポジティブな影響を及ぼすでしょう。触読版を使った漢字学習法については、朝日新聞Edua記事 Yahooニュース掲載 2021年 3月13日で解説しました。
朝日新聞のEduaに掲載された内容が、Yahooニュースにも掲載されました。
多くの方に読んでいただけたかと思います。
ディスグラフィア(発達性の書字障害)に関する御相談
代表 宮崎 圭佑 【資格・学位】 言語聴覚士免許 (国家資格) 修士号 (京都大学) 【経歴】京都大学大学院 人間健康科学系専攻 脳機能リハビリテーション科学分野卒業, 京都大学 医学部付属病院 勤務を経てサワルグリフ開業
触るグリフの利用相談を受け付けています。主宰言語聴覚士 宮崎が対応します。
お気軽にご相談ください。
お電話でのご相談
電話可能な時間は、月曜〜木曜の10時〜17時までとなります。
(この時間内の場合は、お電話の方が助かります)