takaraさん(10代)書字障害、読字障害を持つ学生の学習での困難と乗り越え方
「大人のLD体験談」第10回目は、読み書きに困難を抱える大学生のtakaraさん(10代)です。高校、大学受験での困難をどのような方法で乗り越えたかや、人生を変えた恩師との出会いや学校生活についてお話ししていただきました。インタビュアー:Ledesone Ten
現在の年齢と肩書きを教えてください。
現在19歳で、機械関係について学んでいる学生です。
アルバイトなどもされてますか?
学校が忙しいので頻繁にはしていませんが、イベントスタッフとしてチケット受付のアルバイトなどを2、3回やりました。土日のイベントがある時に入れる時だけやっていたのですが、学校の行事が忙しくて、なかなかアルバイトの時間を確保できないことが多いです。
次に幼少期の頃の話を聞かせてもらえますか? 小学校や高校ぐらいまでを振り返って、勉強や学校生活で苦労したことなどがあれば教えてください。
一番苦労したのは、小学校1、2年生の時です。その頃は、自分の障害について理解していなかったので、とても苦しかったです。
周りも何かおかしいとは感じていたかもしれませんが、理解されていませんでしたし、私自身もストレスが溜まって鉛筆を噛んでしまったり、いじめられたりして、とても大変でした。
しかし、3年生の時に恩師と呼べる素晴らしい先生に出会うことができました。「いろいろな学び方があるから、みんなが学びやすい方法を作っていこう」と言ってくれる先生で、その先生に出会えたことで、勉強が好きになりました。
5、6年生の時には、ノートを取らなくても良いなどの配慮を受けることができました。6年生の頃からは、パソコンやタイピングができるソフトやデジタルツールを使い、メモを取るなどの工夫をしました。
その頃からは、学びが苦しいということはなくなり、むしろ楽しさを感じるようになっていきました。そんな経験から、将来は学びの楽しさを教える存在になりたいと思うようになりました。
もちろん、時には難しい部分もありました。例えば、漢字が明朝体で印刷されたプリントなどは、どうしても読めなくて、テスト勉強に苦労したこともあります。でもそれも、最終的には読みやすいフォントに変更していただくことができました。
そんな感じで小・中学校を過ごしてきて、高校ではもう当たり前のようにいろいろと配慮していただけたので、勉強面では特に苦労はありませんでした。
ありがとうございます。私自身もLD当事者なのですが、すごく体験が似ていて、自分の話を聞いているようでした。takaraさんが診断を受けたのはいつ頃でしたか?また、診断について自分で理解したのはいつ頃だったのでしょうか?
診断自体を受けたのは、小学校1年生の時でした。ただ、具体的に理解し始めたのは、いつだろう…うーん…何かあるんだろうなというのは小学校に入る前から、感じていました。ただ、自分と周りが違うんだというのは、小学校に入ってから気が付きました。
自分の特性についてしっかりと理解しようと思ったのは、小学校高学年くらいです。はっきりと「自分は漢字が書けない」ということに気が付いて、少しずつ自分の特性について調べたり、困りごとについてはどういう解決方法ができるか探したりしていました。具体的に障害について理解したのは中学の時です。
診断を受けた後に、親から診断についての説明を受けたことはありましたか?また、親はどのようにサポートしてくれましたか?
親は、診断を受ける前から私の読み書き障害の可能性に気づいていたようです。私が配慮してもらいやすい環境を整えたり、読み書きを補うスキルを身につけるための場所に連れて行ってくれました。
例えば、iPadの使い方やさまざまな電子機器の使い方を教えてくれる教室に行かせてくれたり。自分の足りない部分を補えるようなツールの使い方を覚える経験を積ませてもらいました。
もともと生物の分野に興味があったのもあり、学校の学びとは違う場所での学びを体験させてもらったと思います。自分もそれに積極的に取り組んでいましたね。
自分が学びたいという気持ちがあったから、親はいろいろとサポートしてくれました。それによって態度が大きく変わったというよりは、親がすでに診断を理解していたので、基本的な方針を決めてサポートしてくれていた感じです。
その時に、勉強の仕方にどんな方法があるのかをたくさん知ることができました。さまざまな手段を教えてもらったおかげで、自分が学ぶための方法が広がりました。
例えば、漢字を覚えるために、それぞれの部品を歌にして覚える方法を教えてもらい、ある程度漢字を覚えることができました。
子どもの頃から「これがすごく好きだったな」とか「これが得意だったな」ということはありますか?
今もそうなんですが、子どもの頃から「なにかを作ること」や「観察すること」が非常に好きでした。たとえば、植物を観察したり、博物館に行っていろんなワークショップに参加したり…ただ、手先が不器用なので、きれいにはできなかったですが(笑)。それでもその経験を通じて、いろいろな手段を考える力が養われました。
特にパソコンで表現する技術は今も非常に役に立っています。
今、CAD(コンピュータ支援設計)を使用して設計を行っているのですが、子どもの頃のデザインや植物の勉強が、役立っています。
レゴで遊ぶのも好きでした。自分で考えたアイデアをレゴで形にするのが楽しかったです。イラストを描くのも好きです。最近では、3Dプリンターを使っていろいろ作ったりしています。
「不器用」とおっしゃっていましたが、全然不器用にみえないのですが、具体的にはどのような点で感じますか?
例えば、折り紙が折れません。一般的な鶴の折り紙ができない…できなくはないですが、すごく時間がかかります。そういう部分は、いろいろとがんばってなんとかカバーしている感じですね。高校時代には溶接分野で東京代表として関東大会に出場したこともありますが、大変でしたね。物を作るのは好きなので、努力で補っています。
高校入試についてお聞きしたいのですが、どのような方法で受験されたのですか?
高校入試に関しては、最初はパソコンでの配慮を申し込んでいましたが、時間的な制約や難しさもあり、最終的には記述式の問題を記号に置き換えて解答する形になりました。選択式問題に変更され、試験時間が1.3倍に延長される配慮も受けました。
高校に入ってからのテストは、パソコンでの回答と時間の延長が許可されました。
大学校への進学はどのような経緯で決まりましたか?
試験は個室で受け、必要に応じて声に出して読んだりすることができる配慮がありました。
次にアルバイトについてお伺いします。イベントスタッフとして働こうと思ったきっかけや、その理由について教えてください。
現在は東京に住んでいるのですが、週2回勤務のアルバイトを探すのは非常に難しいんですね。多くのアルバイトは、募集時には「週2回~」と記載されていますが、実際は週3回以上の勤務を求められるため、平日は授業がある私には合わなかったのです。
また、学校までの移動に2時間かかるため、時間的に余裕がないという事情もありました。そこで、単発のアルバイトの方が自分に合っていると思い、親から紹介されたイベントスタッフの仕事を選びました。
実際にイベントスタッフとして働いてみて、どのような点が合っていると感じたり、逆にやりづらさを感じたりしましたか?
人と接すること自体は好きで、誰かを笑顔にする対応が楽しいと感じますが、時には空回りしてしまうこともあります。高校や大学の頃から周りに「全力で取り組みすぎるあまり、空回りしてしまうことがあるから気を付けたほうがいい」と言われていました。
あと、自分が疲れていることに気づかずに、働きすぎてしまうこともあります。
日常生活で困ったことについてお聞きします。手続きや買い物での困難な点について、具体的に教えていただけますか?
例えば、書類に読みづらい字を書いてしまうことが多いので、代筆をお願いすることがあります。その際にすぐに対応してくれれば良いのですが、そうではない場合もあります。そういう場合に理由をどう伝えるか悩みますね。伝えたくないときは、「手を怪我している」などの理由をつけて対応をお願いすることもあります。
たまに、時間があるとか理解が得られている場合は自分で書くこともあります。
読むときは、普段は拾い読みを使ったり、相手に読み上げてもらったりしています。もし頼れない場合は、Google翻訳や音声読み上げソフトを使っています。特に、論文を読むときや勉強のときには、音声ソフトに文章を入力して読み上げてもらっています。最近は無料で使えるソフトも多くあるので便利だなと思っています。
今後、さらに便利なツールがあればいいなと思うものはありますか?
今既にある技術ですが、「OTONGLASS」などの視界にアクセスするデバイスが魅力的だと感じています。視界にある文字の一部を音声で読み上げてくれるような技術が実現すれば、とても便利だと思います。
まだ高価だったり、映画などの娯楽に向けた商品が多いですが、日常生活にもっと普及してほしいです。
また、金属の3Dプリンターなどの新しい技術が、少数ロットで特定のニーズに対応できるようになれば、便利なツールが増えるのではないかと思います。いままでは大量生産しないと賄えなかったので、需要が少ないところには届かなかったと思うのですが、少量生産が可能になることで、個別に合わせたアイテムも作れるようになるかもしれません。
おっしゃっていた小学校の恩師の先生以外で、出会って良かった人について教えてください。
それ以外では、専門家や学校の先生にとてもお世話になっています。例えば、中学校の校長先生には研究の手助けをしてもらいました。自分が興味を持っている研究テーマについてアドバイスをもらい、発表の機会もいただきました。自分の興味を引き出してくれたり、教えてくれたりして、本当に助けられました。
理科の先生も同様にお世話になって、すごく仲が良かったです。でも、「君は細かいところまで突っ込んでくるから、担任にはあまりなりたくない」と言われたこともありました(笑)。
また高校では、先生も生徒も全員が研究者という環境で、すごく楽しかったです。仲間たちと接する中で知らなかった分野やアイデアを得ることで、自分の研究にも新しい視点が加わったり、普段の日常生活の困りごとでもみんなの考え方からとても影響を受けました。こういった経験から、高校の先生や同級生たちにはとても感謝しています。みんなと出会えて本当によかったなと思っています。
今後、LDの特性を持つ子どもたちに向けてのメッセージをお願いします。
一見、苦しいと感じることでも、他の視点から見てみると、意外な解決策が見つかることがあります。例えば、文字が書けないけどパソコンは使いづらいと感じるなら、音声入力など別の方法を試してみることができます。
困難を感じたときには、立ち止まって他のアプローチを考えることが大切です。自分を理解し、使える手段を探ることで、いろんな方法で問題を解決できる可能性があります。時間をかけて考えることで、新しい解決策が見つかるかもしれません。
また、自分の中で「これは得意だ」と思うことがあれば、自分の強い武器になるので、自分で自信を持てる何かを持つのが大切だと思います。
自信を持てるものを持つことで、さまざまな人たちと関わるときに、その強みを活かして話をすることができます。それは本当に楽しくて面白い経験なので、ぜひ自分の強みを見つけてほしいと思います!