吃音の病態と吃音支援について


吃音(きつおん)は、脳内の発話ネットワーク処理の問題で、話し言葉が滑らかに出ない発話障害です。吃音に特徴的な非流暢には、以下の3つがあります。

 

【吃音の症状】

音のくりかえし(連発)、例:「と、と、とけい」
引き伸ばし(伸発)、例:「とーーけい」
ことばを出せずに間があいてしまう(難発、ブロック)、例:「・・・・とけい」

 

上のような、発話の流暢性(滑らかさ・リズミカルな流れ)を乱す話し方を繰り返す症状が吃音と定義されています。

2歳〜5歳の間に人口の5%前後が吃音を発症すると報告されています。吃音の4割は、ある日突然発症しますが、残り6割は数週間かけて次第に吃音症状が現れます。

発症後4年で、多くの場合(全体の74%)は自然と吃音症状がでなくなりますが、残り26%は段階的に進行して残存固定化するのが特徴です。この残存固定化した吃音を一般的には「吃音者」と呼び、全人口の1%程度 (男女比4:1) だと報告されています。

吃音の臨床で重要なのは26%に相当する進行する吃音です。また進行したとしても、社会不安や回避行動など、より吃音に付随する弊害を増やさない事が重要と考えます。

 

・主な症状は、連発 (音の繰り返し)、伸発 (音の引き伸ばし)、難発 (最初の音の阻止)の3つ

・2〜5歳の間に人口の5〜8%が発症 (4割は突然発症)

・発症4年で全体の74%は自然回復するが、残り26%は残存固定化へ進行する

・残存固定化した吃音者は、全人口の1%程度で男性に多い (男女比4:1)

 

吃音症状の進行と対応について

 

問題となる残り26%の残存固定化する吃音は進行します。

吃音の進行は、幼児期には連発(音の繰り返し),伸発(音の引き伸ばし)から始まり、小学校低学年時に、初めの言葉が出ない阻止(ブロック)症状が加わります。この段階では吃音に対する予期不安や吃音を隠す工夫は見られません。

しかしながら、残存固定化する吃音の場合、吃音に対する予期不安も増し、吃音を隠す回避行動が習慣化していきます。

吃音症状自体も、連発(音の繰り返し)、伸発(音の引き伸ばし)は減り、難発(ブロック)が目立つようになります。

 

吃音症状 認知および感情 本人の悩み
第1層 連発(繰り返し)・伸発(引伸し) ・全ての場面で自由に話す・吃音の自覚(-)・稀に瞬間的なもがきあり 悩みは少ない
第2層 難発(ブロック)・随伴症状が現れる、連発、伸発もあり ・自由に話す・吃音の自覚(+)・稀に話せない事を訴える 本人の自覚と不安が少しずつ現れ始める
第3層 回避以外の症状あり・緊張性にふるえ、語の言い換え ・発話前の予期不安(+)・吃音を隠す工夫を始める・吃音を嫌い恥ずかしく思う 吃音の不安が増し、恐怖に変わり始める
第4層 回避が加わる・一見吃っていない、連発・伸発は減少 ・吃音に恐怖(+)・話し場面を回避し、人に誤解される・1人で吃音の悩みを抱える 吃音の不安が、社会交流活動全般への恐怖心へと繋がる

 

最後まで吃音が進行すると、吃音を隠す工夫が熟達するので、一見吃っているようには見えにくいですが、内面では人と話すことに不安を感じて、1人で吃音を抱え込む傾向にあります。

このような進展パターンから、まず吃音の進行を防ぐには、吃音に対する負の条件学習を引き起こす不安反応や回避行動を減らす事が重要になってきます。

吃音支援では、吃音の進展を把握する定期的なモニタリング検査と、進行を予防する環境調整が重要となります。

 

・残存固定化する吃音(24%)は一定の進行パターンを持つ

・連発,伸発が減り、難発が増えて、人と話す事自体に不安を抱くようになる

・進行が進むと、吃音を隠す工夫により吃音症状自体はわかりづらくなる

・負の感情や習慣に繋がる、環境要因を減らす調整支援が重要となる

・吃音の進行は、持って産まれた生物学的要因と、環境条件が複雑に影響する

 

吃音の原因について

長く吃音は育て方の問題や、診断に起因する吃音の意識化などが原因とされてきました。

しかし、近年の研究では、吃音は持って産まれた生物学的な背景 (遺伝自体、遺伝の発現、エピジェネティクス) が主な原因と分かっています(近年の研究では吃音の発症に関わるいくつかの遺伝子群が報告されています)

このような生来の生物学的要素に加えて、悪い環境条件が重なると吃音の予後の固定化に繋がると言われています。吃音の原因は持って産まれた生物学的な要因が7割、環境要因が3割と考えられています。

主な吃音原因は生物学的な背景にあるので、親の育て方の問題と考える必要はありません。ただし吃音症状の悪化、残存固定化につながる負の環境要因はありますので、吃音の早期発見と環境調整が重要になります。

 

・吃音の原因は「親の育て方」「吃音を意識させたこと」などではない

・吃音の発生には、生物学的要因(遺伝、遺伝の発現、エピジェネティクス)が大きく影響する

・吃音の悪化、残存固定化には環境要因も影響を及ぼす。

・近年の研究では、生物学的要因(7割)、環境要因(3割)と結論づけられている

 

 

吃音の脳内メカニズム

近年のfMRIやPETなど脳機能イメージング装置を利用して、吃音者の脳内メカニズムが解明されつつあります。

右半球の過剰活動が発話ネットワークに支障をきたすという、80年前にオーストンとトラヴィスが提唱した「右大脳半球優位仮説」を裏付ける研究報告が増えています。

吃音の人は、非吃音の人と比べて右半球の活動が過剰となり、具体的には吃音者は発語に関わる運動領域(一時運動野、外側運動前野、捕捉運動野)の多くが右半球優位な傾向にあります。

さらに自分の発話のモニターに関与する左側頭葉後部(BA22)や、流暢な発話に関与する左前頭葉下部(BA47)などの抑制も報告されています。

このような右半球の過剰な活動による発話システムを無理に調整する代償として、小脳や大脳基底核系の過剰活動も報告されています。

時間分解能の高い脳磁図で調べた研究では、非吃音者がブローカ野の活動の後に、発語運動野が活動するのに対して、吃音者では発語運動野が、ブローカ野に先行するなどの傾向も報告されています。

少し難しい説明となりましたが、吃音は喉や口の運動器官自体の問題ではなく、右半球領域の過剰活動に起因した、発語ネットワーク全体の代償学習も含めた、感覚運動統合の障害と結論づけることができると考えられます。

 

・脳科学の進歩で吃音者の脳内メカニズムが解明されつつある。

・右半球の過剰活動が左半球の正常な発話ネットワーク処理を妨げる

・右半球の過剰活動を無理に抑制コントロールする代償として「小脳や大脳基底核の過活動」「ブローカ野と発話運動野の時間的逆転」が生じている

・吃音は喉や口など、運動器官自体の問題ではなく、脳内の発話ネットワーク処理全体の感覚運動統合の処理障害と定義できる

 

私が行ってきた吃音支援について

 

日本で行われている一定のエビデンスが確立された吃音支援法には、環境調整法(要求能力型セラピー) リッカムプログラム があります。近年の臨床研究では、環境調整法とリッカムプログラムの効果はほぼ変わらず、どちらも優れた吃音支援法であることが分かっています。

環境調整法(要求能力型セラピー)


当教室では、小児吃音に対しては、環境調整法(要求能力型セラピー)を中心とした吃音支援を行ってきました。

環境調整法(要求能力型セラピー)は、親の接し方など、吃音児童の環境を調整することで、発話の不安や吃音の恐れを減らして、吃音の残存固定化を予防する方法です。

 

具体的には、①親の発話速度を変える。②子供に話し方の要求をせず、親が力を抜いた話し方のモデルを示す。③毎日、親子で特別な時間を作る。④親の話す量を短く、簡単な文で、ゆっくり話す方向に変化させる。⑤吃音についてオープンな態度を心がける,など

親御さんに正しい吃音の知識を身に着けてもらい、吃音発症時から適切な環境調整を行うことで、吃音の残存固定化の確率を下げる事ができます。また残存固定化したとしても、吃音の悪化や社会不安障害などの二次障害を防ぎます。

 

常用式DAF装置の長期装用プログラム

 

DAF(遅延聴覚フィードバック)装置は自分の声を0.2秒前後遅れて聴かせることで、発話速度を下げて、吃音症状を緩和させます。

従来のDAF装置の欠点として「DAFを利用している時のみしか吃音症状が緩和されないこと」があげらあれますが、耳掛け式DAFにおいては、長期装用効果(Carry Over)が報告されています。エビデンスレベルは症例報告段階ですが、DAFを利用して吃音の少ない発話体験を繰り返すことで、吃音の固定化を予防します。

DAFの改善効果がある方を対象に、月1回の定期検査を行うことでDAFの効果が持ち越しを計測します。※DAFで改善が見込めない成人の難発(ブロック)症状に対しては、軟起声や構音器官の接触などの方法を組み合わせることで対処を行います。

 

 

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