ソラみさん、総務事務(40代)算数障害とともに歩む、自己理解と仕事のバランス
「大人のLD体験談」第8回目は、2018年にASD、ADHD、LDと診断されたソラみさんです。現在、障害者雇用で総務事務を担当し、計算や時間管理に苦労しながらも工夫して働いています。福祉サービスの利用や友人の支援を受けながら、LDの周知と支援の重要性や、LDを持つ子どもたちへのメッセージについてもお話ししていただきました。インタビュアー:Ledesone Ten
LDと診断された過程について教えてください
私が発達障害と診断されたのは、2018年3月のことです。初めてWAIS-IIIを受けた結果、ASD(自閉症スペクトラム障害)、ADHD(注意欠如・多動性障害)、LD(学習障害)の算数障害があると言われました。最近ではWAIS-IVも受け、その結果がどうなるか心配でしたが、診断は変わらず、発達障害であることは変わらないと言われました。
日常生活や仕事での困りごとについて教えてください
時間管理が苦手で、生活に大きな支障をきたしています。仕事に行く時は決まった時間に起きて、電車に乗る時刻に合わせて準備をしていますが、いつも家を出るのがギリギリになってしまい毎朝パニックで最寄り駅まで走っています。
自分の特性的に、アナログ時計よりもデジタル時計の方が、若干リアルに危機感を感じやすいため、デジタル時計を買い足しました。(「”この数字(何分か)” になれば○○しなければいけない」という目安になるため)
前もって家を出る時間を考えるのが難しいです。「”今この瞬間” のことしか、覚えていられない・記憶を保持できない」ため、先読み行動ができず、時間に関わる生活全般に困難を抱えています。
日常生活では困難が多いものの、コミュニケーションはある程度できるため、困り事を抱えていることが周りに伝わりにくく困っています。
特に、「発達障害はASD・ADHDの方が大多数」ということもあり、発達当事者の中でもLD等の学習障害はあまり知られておらず、時々残念な気持ちになります。
現在の仕事について教えてください
障害者雇用枠にて総務事務の仕事をしています。この秋で働き出してから丸3年になります。
業務内容は、職員の勤務管理・通勤交通費・備品管理等を行っています。
仕事は、突然降ってきます。それらに臨機応変に対応しながら他の部署の方々と協力し合い、職員のサポートをしています。
2ヶ月に1回位の頻度で、年1回の業務が発生します。入社後の1~2年目は大変苦労をしましたが、慣れてくるとスムーズに対処できるようになりました。
算数障害に関連する困りごとについて教えてください
私のLD(算数障害)の特性は、以下の業務に影響を及ぼしています。
①締切日を決めるのが苦手・②所要時間の把握が困難・③時期×金額の計算に時間がかかる・④85分など60分以上の時間の繰り上げ繰り下げ計算が苦手」等です。
「①締切日を決めるのが苦手」というのは、業務によっては、逆算して到着締切日を担当者である私が自分で設定しなくてはいけないからです。”本部と職員の仲介者” という立ち位置にいるため、適切なタイミングでの締切日を何段階かに分けて設定することがとても苦手です。
「②所要時間の把握が困難」についてです。私は “今この瞬間、何をすべきか” ということはわかりますが、”今やっていることがどれくらい時間を要するか、これから取り組むことと合わせるとトータル何分かかるのか” などの『段取り力』が弱いです。
他者からの指示に対しては合わせることができますが、自分で時間や締切を設定したうえで他の人も巻き込み適切な段取りを組むことが苦手です。
「③時期×金額の計算に時間がかかる」というのは、通勤交通費の計算をする前段階でつまずきやすいです。通勤交通費は通常、有効期限が切れる1ヶ月前に支給されます。
よってシステムに入力する前段階で、ある程度の把握をしておかなければ職員からの照会に答えられないため、その計算に時間がかかります。
「④85分など60分以上の時間の繰り上げ繰り下げ計算が苦手」については、勤務管理業務で年度末等、一部の職員が紙で管理になった時に影響してきます。時間の繰り上げ繰り下げは計算機では計算できないためとても困っています。
面接時の職務経歴書の項目にある、”障害に対する配慮事項” で「LD(計算障害)があるため計算することが苦手です」と記載しましたが他の業務も含め、配慮がされてる印象は特段ありません。
困りごとから導入された制度やツールがあれば教えてください
現在の職場では、困りごとが起点で制度やツールが導入されたり、ルールが変わったりすることはありません。入社当初、主任から「ソラみさんの障害については皆さんに伝えている」と言われましたが、「ソラみさんは障害者雇用だ」ということくらいで、発達障害については同じ部署の方々にも知られていませんでした。
障害者雇用の他の社員は身体障害や精神障害が多く、発達障害についての配慮や制度の変更はありません。私が出した要望で、電話の受電を省いてほしいというものがありました。
大手の総務部門では電話対応が多く、対応が非常に困難だと感じました。ですが、上司に訴えかけても、発達障害の理解が乏しい方だったために中々話が通じず交渉が大変難しかったです。
「言われたことの記憶ができない」と訴えかけても、「私だって記憶できないわよぉ」と、勤続40年以上の上司から言われました。
「発達障害・計算障害・苦手特性」等の言葉を使って伝えても通じず受け入れてくださらないため、「イラストでなら伝わるか・発達の専門用語を使わない伝え方なら伝わるか」と尽力しましたが、「私、見ないわよ」と差し出したものを拒否されるなどして、交渉には3ヶ月以上かかりました。
その間、就ポツに相談するも「どこ経由で就職したのですか?」と尋ねられ、「ハローワークです」と言った所、「ではハローワークに言ってください」と電話を切られたりしました。
ハローワークの当時の担当にお伝えしても「100%、ソラみさんの味方になることはできない」と言われ、絶望しました。
最終的には、直属の上司とその上の上司も巻き込んで、3者面談という形で解決に至り、今は電話のない席で仕事をさせていただいています。
過去の職歴について教えてください
大学中退後、飲食店、眼鏡販売、貿易事務、クレジットカード募集、短期のデータ入力、コールセンターなどを経験しました。
クレジットカードの募集の仕事は10年間勤めました。「目標という名前の “ノルマ” 」を日々達成するのが辛かったです。1日100人以上に声をかけても1件も受け付けられないことが多く、また、声をかけるお客様も高齢の方が多かったので中々話が通じないことも多々あり、とても困りました。
合わなかった仕事のタイプについて教えてください
貿易事務では、細かい書類作業や調整作業が多く、集中力が続かないことが多かったです。リーマンショックの影響で雇用が不安定になり、仕事を失いました。クレジットカードの募集も、数値目標に追われるのがしんどく、自分の性格には合わないと感じました。
クレジットカードの募集業務をしてる時に、一瞬、ダブルワークとして自立訓練の就労事業所でスタッフとして働いたことがあります。
そこで、利用者さんのスケジュールの把握をして時間割等組み込んでいくのですが、それがとても困難でした。
正直自分1人のスケジュール把握でさえも大変なのに、よく欠席される利用者さん一人一人の把握はとても難しかったです。「この日休んだから別日に振り替え」など、日によってスピーディに変わるためとても追い付けませんでした。
幼少期の苦労について教えてください
算数障害というよりは、発達性協調運動障害(DCD)だったのかもしれません。算数では、遅刻や時間の計算が苦手で、割り算やパーセンテージがわからなかったですが、生活習慣で改善されました。
DCDについては、自転車に乗れず、協調性運動障害がありました。小学校ではスカートの着脱や朝起きるのが苦手でしたが、それ以外のことは忘れました。
家庭環境は、一人っ子で、父親は20代の時に病気で亡くなり、母親とはほぼ絶縁状態でした。母親は強く、父親は放置気味で、リビングで無関心な態度でした。
塗り絵や一人遊びが好きで、シルバニアファミリーでおままごとをするのが楽しかったです。絵を描くのは下手でしたが、塗り絵は好きでした。
中学校や高校について教えてください
中学校では卓球部に入りましたが、練習についていけず辞めました。その後、吹奏楽部に入りましたが、友達が離れていったり、担任の先生との関係が悪かったりして、登校拒否気味でした。高校では、留学コースに入って3か月間の留学を経験しました。
生活面での困りごとや工夫について教えてください
福祉サービスを利用しています。3年ほど前に家事支援を始め、週に1回ヘルパーさんに来てもらい、相談支援も受けています。書類関係の手続きが難しく、自分で行うのは困難なため、相談支援センターにお願いしています。
服薬については特に問題はありませんが、体質的に睡眠薬が効きすぎるため、服用はしていません。
買い物での困りごとについて教えてください
計算が苦手で買いすぎてしまったり、冷蔵庫の中で食材が腐ることが多いです。買い物メモを書いてもそのメモを忘れたり、スマホアプリに書いていても、買い物の時はそれを見るのを忘れるために、目当てのもの以外を買ってしまうことが多々あります。
以前は毎日仕事帰りにスーパーで2000円から4000円程使ってしまい、昼食をコンビニで700円ほど購入していました。最近は、冷凍ごはんと冷凍食品を持っていったりして少しでも節約に繋がるような行動を心がけています。
普段から使用している役立つツールやテクノロジーがあれば教えてください
待ち合わせ時間の調整に関するアプリなどは便利かもしれませんが、行動しない可能性が高いです。エアタグは便利だと思いますが、物をなくすことは少ないです。リマインダーやアレクサも使っていますが、抜け漏れがあるのが現実です。
良かった出会いがあれば教えてください
仕事関係では特にありませんが、障害特性に配慮してくれた方がいます。現在、「ACあすか会」というアダルトチルドレンの自助会運営を私と一緒に行っていただいている方です。彼女は私と苦手な特性が似ているため、お互いに注意し合って苦手部分を補っています。
彼女の得意な所はIT関係で「公式LINEアカウント・Twitter/Bluesky/Facebookの中の人・チラシ作り」などをしていただいています。私は上記のことが苦手なのでとても感謝をしています。
対して、私は色んな当事者の方と知り合って仲良くなるのが得意なので、主に集客の方を頑張っています。お互いの苦手特性を補い合い、それぞれの得意分野を活かし合っています。定期的に、会の運営や仕組み作りについて話し合っています。
「ACあすか会」は立ち上げて5年半くらいになります。2ヶ月に1回の頻度で開催し、ハロウィンやクリスマス、お花見など季節に合わせた行事も不定期で行っています。これからも長く続けていきたい会です。
LDを持つ子どもたちへのメッセージをお願いします
支援を受けることは大切ですが、「自己理解をする」ということも重要だと思います。周りの方の意見や支援職の方のアドバイスも大切ですが、全てを取り入れ「言うことを聞く」ということではなく、「自分の頭で考えてみる」ということも、併せて考えてみるのは大事ではないか、と考えています。
アドラー心理学の「課題の分離」にも通じますが、最終的な責任を自分で持ち、他人と自分を分けて考えることが、生きやすくするための鍵だと思っています。自身の尊厳を守りながら、自身に合ったオリジナルの方法を見つけることが大切だと思います。