子供の意外な能力について(Scientifc American July 2010要約)

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Scientifc American July 2010

 

子供の発達を学ぶ上で、とても大切な記事だと思いますのでScientifc American July 2010に掲載された「How babies think(子供はどのように思考するか)という記事を要約翻訳させていただきます。

 

ピアジェは偉大な哲学者(認識論)の先人ではありますが、ピアジェが提唱した発達段階の多くが、最近の研究では見直されています。(心理師やSTの国家試験のみならず、日本の発達啓蒙書の多くは、ピアジェの発達段階を元に語られているので、必ずアップデートが必要です

 

もちろん、ピアジェは私のもっとも尊敬する科学者の1人であり、これはピアジェを批判する内容ではございません。ピアジェが踏み出した偉大な歩みを、現代の科学がアップデートし続けていると考えていだければと思います。

 

むしろ、この記事に書かれているような「目,手,頭」を使って探索的に世界を学ぶ、幼児の思考過程そのものが「感覚・運動から高次抽象思考へ」というピアジェの先見性の偉大さを証明しているのではないでしょうか。

 

 

How babies think

(子供はどのように思考するのか)

 

要約】かつての子供の思考に関する認識

・30年ほど前まで、多くの心理学者は赤ちゃんは自分本位であり、自己中心的で、倫理観が無い存在だと考えていた。(2010年の記事なので、今からだと40年前)

・特に「いま,ここ」という枠に縛られていて、因果関係の類推したり、他者の経験を想像することも、空想と現実の区別もつかないと考えられていた。

・この分野の先駆者はスイスの心理学者ジャン・ピアジェである。初期の研究者は幼児の思考は未完成であると考えた。

 

【要約】子供の意外な能力

・1970年代後半になると行動研究の進歩により赤ちゃんは「今、ここ」にとらわれない考え方が出来ることが分かってきた。

・赤ちゃんは運動や重力、中に何が入っているかなど単純な物理的関係を理解していることが分かってきた。(例,硬い壁から硬いおもちゃの車が出てくるなど、不自然な物理的光景では驚く)

・3〜4歳になると、動植物などの本質的性質に気づき、生物には外見が変わっても変わらない本質的な「芯」のようなものがあると理解しはじめる

・1996年に18カ月児は他者が自分とは違うものを欲している場合があることを理解できる事も実験で証明された(2つの食べ物がある場合、実験者がおいしそうに食べた方の食べ物を手渡す頻度が上がるなど)

・4歳くらいになると、ある人が変な行動をしているのは何か間違った思い込みをしているからだと解釈できるようになる。他者の内的心理状態を想像できるようになる。

・20世紀の終わりには,赤ちゃんはかなり論理的で洗練された知識を持ち,成長するにつれて驚異的な速さでその知識を増やしていくことが明らかになっている。

 

【要約】子供は統計的に実験学習する

・8ヶ月の赤ちゃんは、統計的にモノゴトの推定ができることが分かっている。例えば、白玉よりも赤玉を多く入れた箱から、白玉ばかりでてくると驚いた表情となる。母集団と標本の関係を理解しているのだ。

・20ヶ月の赤ちゃんに、カエルの人形を多く入れたのを見せた箱から、実験者がアヒルの人形を多く取り出すと、後で実験者にアヒルの人形を差し出すなど、無作為抽出にならなかった理由(その人の好みなど)を想像することができた。

・足し算や引き算などが出来ない未就学児においても、「置く積み木の種類」と「ランプの点灯回数」などに確率的規則性が隠された装置(黄色⇒3回のうち2回、青⇒3回のうち1回など)において、驚くほど高い確率でランプが多く点灯する積み木を選んで置いた。

・研究結果から,子どもたちが自発的に(“ものすごく熱中して”)遊んでいるときは,因果関係を調べたり,実験を行ったりしていると考えられる。実験は世界の仕組みを知るための最良の方法だ。

 

【要約】確率論的モデル(ベイズモデル)に似た赤ちゃんの思考

・赤ちゃんは大人の科学者のように計画的に実験しているわけではないが、赤ちゃん脳は発見に最適な方法を無意識に使っている可能性がある

・モノゴトの知識から因果関係の仮説を複数用意して、仮説と各事象が起きる確率を体系的に関連づける。試行錯誤を行う中で検証して、より最適な仮説が、可能性を持つと考える。これは、まるで確率論的モデル(ベイズモデル)のようである。

・人間には前頭前皮質と呼ばれる特有の脳領域があり,成熟にはとりわけ長い時間がかかる。この脳領域がつかさどる集中,計画,効率的な作業といった大人の能力は,幼年期の長期にわたる学習に基づいて育まれる。この領域の配線は20代半ばまで完成しないこともある。

・赤ちゃんがこのように柔軟性を持って確率的な探索的思考が行える背景には、まだ計画性や抑制に関わる前頭前野の皮質成長が未発達であることと関係しているのかもしれない。

・赤ちゃんや幼児は単なる未完の大人ではない。変化し,創造し,学び,探求するために,進化によって極めてみごとに設計されている。このような能力こそが人間の本質で,人生の最初の数年間に純粋な形で表れる(最重要)

 

(宮崎から一言)

最後は「人間の認知思考の本質への問い」で締めた点は流石ですね。

ピアジェが知りたかったのは子供の発達自体ではなく、子供の発達から垣間見える「ヒトの思考の枠組み(認知制約)」に関する部分だと考えます。

西欧哲学の「認識論」の問いが実証科学へと発展進歩したのが認知科学,発達科学なんですよね。

 

 

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