ディスレクシアとディスグラフィアの違い

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【記事執筆者】

株式会社 宮﨑言語療法室   言語聴覚士 宮崎圭佑

学習障害(ディスレクシア,算数障害) への触覚学習利用を専門としています。【経歴】京都大学大学院 人間健康科学系専攻 脳機能リハビリテーション科学分野卒業,医療機関,京都大学医学部付属病院 精神科診療部を経て宮﨑言語療法室(株)を開業 


 

 

 

この記事ではディスレクシア(発達性読み書き障害)と、ディスグラフィア(発達性書字障害)の違いについて説明します。この2つの言葉は、とても似ていて、どのような違いがあるのか分からない人も多いのではないでしょうか。

ディスレクシア、ディスグラフィアという言葉は英語圏で生まれた概念であり、読み書きLDは、使用する文字言語ごとに状態が異なるので、日本語圏で英語圏の言葉をそのまま適応すると混乱が生じてしまいます。

文字言語が違えば、文字と音との対応関係、文字の形の複雑さ、全てが異なるからです。

 

結論から言うと、ディスレクシアやディスレクシアとは、原因が同じであれ「読み困難」「書き困難」という状態を示す言葉なのです。例えば診断名として使われるときには、読み書きに問題があれば「ディスレクシア」、読みの問題がみられず書字のみに著しい困難があれば「ディスグラフィア」など、状態に合わせて使われます。

いわば、風邪で生じた症状を「発熱」「感冒」など症状ごとに表しているようなものなのです。

 

一方で、2つの言葉を介して、読み書き困難状態を整理しておくことは大切です。この記事では、ディスレクシア、ディスグラフィアという言葉が指し示す読み書き困難状態のタイプと原因について解説します。

 

 

ディスレクシア(発達性読み書き障害)

 

 

ディスレクシアは「発達性読み書き障害」と邦訳される概念です。視力や聴覚に問題がなく、全般的な知能にも問題がないのに「読み」「書き」に著しい困難が生じる状態を示す言葉です。原因は生まれながらの脳機能特性にありまます(発達性と呼ばれる理由です)。

 

長く教育や医療の現場で使われてきました。医学的には限局性学習症の状態の1つに含まれます。英語圏では人口の15%前後、日本語圏では5%~7%ほど存在すると言われています。

 

読むことが苦手なら、書くことも苦手になります。だから「読み書き障害」と邦訳されています。

 

国内の学術団体である発達性ディスレクシア研究会は以下のように定義しています。

 

「発達性ディスレクシアの定義」
 国際ディスレクシア協会の定義では、「Dyslexiaは、神経生物学的原因に起因する特異的学習障害である。その特徴は、正確かつ(または)流暢な単語認識の困難さであり、綴りや文字記号音声化の拙劣さである。こうした困難さは、典型的には、言語の音韻的要素の障害によるものであり、しばしば他の認知能力からは予測できないものであり、また、通常の授業も効果的ではない。二次的には、結果的に読解や読む機会が少なくなるという問題が生じ、それは語彙の発達や背景となる知識の増大を妨げるものとなり得る(2003)。宇野訳)」と、記述されています。

 

 

ディスレクシアの症状

 

【ディスレクシアの読みの様子】44歳の成人男性の読み困難の様子です。1文字ずつ確かめて読む「逐次読み」の様子が観察できます。触知覚を利用した解読訓練で一纏め読みができるようになりました。

 

特徴的な症状は、以下

・文章を流暢に読みにくい

・文章を読むと疲れる

・カタカナや漢字が何度書いても覚えにくい

・文字が思い出しにくい

・英語学習が著しく苦手、

などです。

 

英語圏は文字と音の対応が複雑で「読み困難」が顕在化しやすいのに対して、日本語圏は、文字と音の対応が1対1でシンプルなので「読み」の問題が顕在化しにくい傾向があります。一方で、日本語圏の場合は膨大かつ複雑な文字である「漢字」を手で書いて覚える機会が多い文化です。日本語圏のディスレクシアでは「読み」だけではなく「書き」も重視される背景には、文化の違いがあります。

 

もちろん、日本語圏でも「読み」の問題が、気づかれにくいだけで、読みの負担が学業不振につながるなど、深刻な問題が生じています。日本語圏のディスレクシアの特徴として、仮名はある程度は読めるけど、高学年になり文章量が多くなるほど負担が増える。また高学年になり漢字など複雑な文字が増えるほど、ついていけなくなる傾向があります。文字と音との関係が複雑な英語学習が著しく苦手なことも特徴です。

 

 

ディスレクシアの脳機能と背景認知障害

 

 

ディスレクシアの脳機能特性は、文字と音の結びつけるデコーディング機能の弱さ、単語形態記憶の弱さ、読み機能を補う為の脳の代償過活動などが知られています。文字を見ても、頭の中で音が鳴りにくいので、1文字ずつ確かめて読む(逐次読み)になりやすく、頭の中の言葉と文字列が結びつかないので、単語形態として一纏めの記憶が形成しにくい。これらの問題が繋がって、流暢な読みが出来ずに、読むと疲れてしまう「易疲労」を引き起こします。

 

読むと疲れると、文字を読まなくなり、語彙不足から「学業不振」に繋がります。

不登校に発展するケースが多いのも特徴です。

 

またディスレクシアの認知機能を調べた研究では、頭の中で音を操作する音韻意識の弱さ、文字や図形の視覚性記憶の弱さ、素早く絵や数字を読み上げる呼称速度能力の弱さが報告されています。

 

これら背景認知機能の脆弱性が組合わさる事で、文字を音に変換する機能や、文字の形を覚えて思い浮かべる機能などの弱さに繋がっています。詳しくは「ディスレクシアの背景認知機能障害」の記事を参考にしてください。

 

 

ディスグラフィア(発達性書字障害)

 

 

ディスグラフィアは「読み」に大きな問題はみられず、「書き」に著しい困難がある状態を指し示します。

「読めないけど書ける」は、原理的に存在しませんが「読めるけど書くのが苦手な人はいます。このような「書字表出」に特徴的な状態をディスグラフィアと形容しています。

ディスグラフィアも、視力や聴覚に問題がなく、全般的な知能にも問題がないのに「書き」に著しい困難が生じる状態を示す言葉です。原因は生まれながらの脳機能特性にありまます(発達性と呼ばれる理由です)。

 

🔶文字が覚えられない、思い出せないタイプ(字形記憶の生成と想起困難)

 

ディスグラフィアの文字想起の困難

宮﨑がカタカナの書取(聴写)課題で、再現してみました。聴き取った文字を想起して書くことが難しい。文字の形のイメージが弱く自信がないので、文字の形が崩れたり、別の文字になったりします。

 

日本語圏でもっとも多い書き困難状態であり、読みの問題が伴うディスレクシアの児童、読みの問題は伴わない書字困難のみの児童、どちらでも現れます。

書き困難を示す児童の多くが「漢字を手で繰り返し書いても覚えられない」「漢字を書いて覚えてもすぐに忘れる」という状態を示します。また、漢字の基本パーツにはカタカナが多く用いられているので、カタカナが覚えるのが苦手な状態から、漢字学習で顕在化するケースが多いのが特徴です。

 

文字が覚えられない、思い出しにくい」背景には、文字の形の記憶イメージを形成したり、想起するプロセスの弱さがあります。膨大な文字を覚えるには、基本的な文字の形が、意味を帯びた豊かなイメージとして頭の中で浮かぶ事が大切です。

この頭の中に形成される文字の形のイメージ(字形記憶)が弱いと、手を動かして書いても、文字の形のイメージ自体が弱いので、砂の上に塔を建てるで、記憶を補強することができません。これが、手で書いても覚えられない、覚えても記憶として残りにくい理由です。

文字の形のイメージが弱いので、書き方も規則性が乏しく、模様を写すようなランダムな書き方をする子供もいます。当然ですが、文字の形が具体的に浮かべられないので、文字も筆圧が弱く崩れた形になります。

 

一見すると読みに問題はなくても、検査で調べると、読みの問題(ディスレクシア)が伴うケースが多い事も特徴です。顕在化しやすい書字問題に比べて、読み問題は、読めているけど、負担が大きく疲労している状況が見過ごされています。

 

🔶文字が思い浮かぶけど、書き方が分からないタイプ

 

ディスグラフィア(書字障害)
形態が崩れた小学5年生(ディスグラフィア児童の文字)

 

文字の形自体は思い浮かぶけれども、文字の書き方が思い出せない、うまく書けないタイプです。

頭の中に浮かんだ文字の形に添って、手を動かして書く為には、書字運動イメージを引き出して繋げる必要があります。しかし、書字運動イメージの想起プロセスに問題があると、文字自体は浮かんでいるけど、書けないという状態が生じます。次に紹介する「不器用で上手く書けないタイプ」と併存するケースも多く、地続きな事が特徴です。

 

このタイプの書字困難は、手で書く以外の方法(タイピング)などで、書きたいことが表出できるようになるケースも多いです。

 

 

🔶手で書くと不器用で、粗雑なタイプ(ADHD、DCD併存型)

 

読み書きLDは、ADHDとの併存率が高く、ADHDは前頭葉から基底核にいたる注意・運動コントロール系の機能障害ですので、DCDの併存が高い事が知られています。

ADHDに併存するSLDの特徴を調べるため、国立精神・神経医療センターでSLDの患者120名を対象に行った研究では、SLD+ADHD(64例、53%)、SLD+ASD(12.5%)という結果が得られました。

 

つまり、読み書き困難に併せて「注意の問題」「手先の不器用さの問題」が影響しやすい事が特徴です。特に注意のコントロールと、手先の不器用さの問題は「手で書く行為(書字)」に影響が表れやすいと考えられています。

 

早く粗雑に書くために、整った字が書けずに崩れてしまうのです。

 

ADHD並存型の読み書きLDは、以下のような特徴が方向されています。

 

1)ADHDの多動・衝動性が強く、学習に集中できないタイプ

2)目と手の協調が悪く、字が粗雑で書字困難が強い(DCDを併存する場合が多い)タイプ

3)読字障害があり、不注意優勢型ADHDで、不注意が目立つタイプ

 

このタイプは、2)目と手の協調が悪く、字が粗雑で書字困難が強い(DCDを併存する場合が多い)タイプに相当します。

 

🔶混合型(様々な問題が併存するタイプ)

実際は、これらのタイプは混在しており、綺麗に境界線が引けるわけではありません。文字の形が覚えるのが苦手で、手先が不器用な混合型の児童もいます。基本的に混合している状態の方が多いと考えてください。

 

 

ディスグラフィアの脳機能と背景認知障害

 

ディスグラフィアの原因を理解するには脳内での「文字を書くプロセス」を知る必要があります。

①文字の形の記憶イメージを形成します(学習過程)

②頭の中に音と文字の形のイメージを浮かべます。

③手で書く運動記憶イメージを想起します。

④手で書く運動プロトコルを組み立てて調整します。

⑤手で書く運動として出力します。

 

①、②の過程に問題がある場合は「文字の形が覚えられない、思い出せないタイプ」

③、④の過程に問題がある場合は「文字は浮かぶけど書き方が分からないタイプ

④、⑤の過程に問題がある場合は「手で書くと、不器用で粗雑なタイプ」と分類できます。

 

もちろん、タイプ分類に沿って綺麗な境界線が引けるものではなく、実際の書字困難状態は、これらの原因が混在しています。

 

 

 

ディスレクシア、ディスグラフィアの指導法

 

 

読み書きLDの機能改善で大切なのは、以下3つになります。

 

・文字の形の記憶を作る(文字形態記憶の形成)

・単語形態の記憶を作る(単語形態記憶の形成)

・文字と音の結びつきを強める(文字と音の連合記憶形成)

 

宮﨑言語療法室では、海外では一般的なマルチセンソリーメソッド(多感覚法)に沿った教材を販売しています。立体文字を段階的に「見ながら触れて音読する」触るグリフを用いて、自宅でも出来る読み書きトレーニングを実施しています。

 

文字に触れた触覚フィードバックを介して音読することで、文字形態記憶の形成、単語形態記憶の形成、文字と音の連合記憶形成が促されます。ディスレクシア、ディスグラフィアの機能的脆弱性を改善させることができます。

 

文字を見た時に、文字が頭に入りやすく、また文字の音が鳴りやすくなります。さらに書く時には、文字の形が思い浮かびやすくなります。読み書きの負担が軽減します。

 

触るグリフの利用相談

 

 

【代表 】宮崎 圭佑 【資格・学位】 言語聴覚士免許 (国家資格) 修士号 (京都大学)  【経歴】京都大学大学院 人間健康科学系専攻 脳機能リハビリテーション科学分野卒業, 京都大学 医学部付属病院 勤務を経て宮﨑言語療法室を開業

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