ディスレクシア(難読症、読字障害)の症状と特性について

ディスレクシア(難読症・読字障害)は、文章を「読むこと」に難しさをもつ症状です。

多くの場合、読めないので「書くこと」も苦手です。「米国精神医学会の診断基準(DSM-5)」では、文字を読むことに限定した特徴的な症状を示すタイプの学習障害と定義されています。

ディスレクシアの人は世界全体に5%〜15%ほどいます。ディスレクシアの人口割合は「言語」により大きく異なります。

ディスレクシアの原因は年齢水準と比べて全般的な知能が低いわけではなく、もちろん教育や育て方の問題ではありません。

生まれ持った脳機能の機能的な問題が文字の認知に影響を与えるためです。

ディスレクシアの人口割合は、日本が5%以下なのに対して、アメリカ3〜10%(2000年)、イギリス5〜17%(1998年)、ドイツ 5%(1997)、イタリア2%(1969)と報告されており「文字と音の対応」が複雑な言語ほど、ディスレクシア人口は多い傾向にあります。

日本の潜在的ディスレクシア人口

日本のディスレクシア人口は、海外よりも少なく見積もられていますが、日本語の仮名は音と文字の対応が規則的な言語なので、ある程度は読めてしまう事と関係しています。

しかし、よく観察すると、1文字ずつゆっくり読む(逐次読み)や、読書でひどく疲れるなど(易疲労性)など、隠れた症状が存在します。

文部科学省の全国調査(2012年)では、通常の学級に在籍している子供の2.4%が知的水準には問題はなくても、読み書きの問題でつまずいている事が報告されています。

また別の調査(安藤,2002)では、低学年では3%ですが、読み書きの課題が難しくなる4年生以降では増加し6年生では20%の児童が十分な読み書きの能力を持たずに卒業していることが報告されています。

日本においてはディスレクシアは、ある程度の文字の読み書きができる人の中にひっそりと隠れて存在している状態なのです。

このような潜在的に存在しているディスレクシアは、受験勉強や仕事など、文字の読み書きで求められる難度が上がるにつれて困難が増すことが分かっています。

ディスレクシア(難読症・読字障害)の代表的な症状

「児童の発達生読み書き障害」「英語ディスレクシア」「青年・成人の軽度ディスレクシア」に分けて説明したいと思います。

児童の発達性読み書き障害

児童の「発達性読み書き障害」の症状は、小学校低学年の文字の読み書き学習が始まった段階で家庭や学校で発見されます。

文字の読み書きに対する苦手意識や特徴的な誤りがディスレクシア発見のサインとなります。

詳しくは「児童の発達性読み書き障害の記事参照」

《読みの問題》

・幼児期に文字に関心が薄い(覚えようとしない、読もうとしない)
・文字を1つ1つ拾って、ゆっくりでないと字が読めない(逐次読み)
・単語や文節の途中を区切って読む
・文中の文字を指でなぞらないと読めない
・沢山の文字や単語が狭い行間に詰まっていると読みにくい
・文字を読んでいるとすぐに疲れる(易疲労性)
・文の読みにくい箇所は読み飛ばしたり、変えて読む

《書く事の問題》

・「わ」「は」や「お」「を」など、同じ音の文字の書き間違いが多い。
・「め」と「ぬ」「雪」と「雷」などカタチが似ている文字の書き間違いが多い。
・促音(「てっぽう」の「っ」)、撥音(「なんでもない」の「ん」)
・二重母音(「おかあさん」の「かあ」)など特殊音節の誤りが多い。

英語ディスレクシアの症状(母語が日本語の場合)

中学以降の英語学習の場面ではディスレクシア傾向が観察される人が多くいます。

日本語と異なる英語の性質や、ディスレクシアは音韻処理能力が弱いので、外国語である英語学習が苦手であることが原因と考えられます。

青年期を過ぎてから、英語学習の難しさから、本人の自覚症状として分かるケースも多く報告されています。

英語ディスレクシアの記事参照

・他の科目に比べて、著しく英語が苦手である。
・英語の長文をいくら努力してもスラスラ読めない
・英語の長文を読んでいると頭がとても疲れる
・長い単語、似た単語同士などを見ていると、綴りが混乱する
・全体的に文量の多い英語文がボヤけて見える。
・いくら覚えても英単語の書き間違いがある

成人の軽度ディスレクシア

日本語は音と文字の規則性がシンプルなので、ディスレクシアでもある程度は読み書きができるようになります。

ですが、高校や大学受験など本格的に文章解読が求められる時期や、大人になって仕事などで「読み」の苦手意識として現れます。

成人の軽度ディスレクシアについて参照

・高校、大学受験になり「読み」の苦手さを意識しはじめた。
・説明書などを読んでも、文字が多くて複雑で理解できない。
・学業や仕事での「読み間違い」「書き間違い」が多い
・長い文章を読むのが苦手で疲れる
・英語学習などが他の科目と比べて著しく苦手である

ディスレクシの原因について


ディスレクシアの認知と脳機能については動画でも詳しく解説しています。
ディスレクシアの原因は脳の部分的な機能不全が、文字と音を紐付けて引き出す「音韻処理」と、文字のまとまりを単語として認知する「視覚辞書」に影響を及ぼすためです。

私達は文字を見ると、自然とその文字の「読み方(音)」が頭の中で浮かんで呼応します(音韻処理能力)。文章の中からスムーズに単語を拾って文字を読むことが出来ます(視覚辞書)。しかしディスレクシアはこの音韻処理能力と視覚辞書が上手く機能しません。

ディスレクシアの認知問題

私達は「おおさんしょうお」という言葉の場合、文字列を見ただけで「オオサンショウオ」という単語を認識して、その単語の読み方(音)が自然と頭の中で呼応します。黒くて大きなドロンとした生き物であることがすぐに頭に思い浮かびます。

これは私達の脳内で、単語を認知する視覚辞書と、その読み方(音)を引き出す音韻処理能力が機能しているからなのです。

しかし、ディスレクシアの児童はこの2つの機能が弱いので、文字列を単語として拾い出す事が難しく、文字と音の結びつきが弱く、1文字ずつ「逐次読み」で苦労して読む場合が多く、文字を読むことの疲労や苦手意識に繋がるのです。

ディスレクシアの脳機能

この「音韻処理能力」と「視覚辞書」の弱さの背景にはディスレクシアの脳機能の問題があります。

ディスレクシアは文字の「読み(音)」と「綴り」に関わる脳活動の弱さが特徴的です。

fMRI(脳機能イメージング)でディスレクシアの脳を調べた研究報告では、この音韻処理に関わる左頭頂側頭部(縁上回、下頭頂小葉)の活動の弱さと、視覚辞書に関わる左下後頭側頭回(紡錘上回などの活動の弱さが報告されています。

また、2つの機能の弱さを補う為か、下前頭回(ブローカ野)の特徴的な活動増加パターンも報告されています。

医学的診断と診断基準

医師の診断はDSM(精神障害の診断・統計マニュアル)やICD10(疾病及び関連保健問題の国際統計分類)に基づいて行います。

保護者や本人からのヒアリング(問診)、知能検査、認知機能検査などを総合的に判断して、専門の医師が医学的診断をくだします。

学習環境が読み書きの問題の原因ではないこと、全般的知能に問題が無いこと、またADHD(注意欠陥多動症)やASD(自閉スペクトラム症)が主な読み書きの原因ではないことなどが確かめられたら、ディスレクシアとしての診断となります。

以下、診断のフローチャートです。

「診断フローチャート図」小枝達也、関あゆみ著書「T式ひらがな音読支援」から引用

医学的診断基準 (DSM‐5,ICD-10)

1米国精神医学会の診断基準DSM-5(2013)

特異的学習障害(LD)のうち、読み障害を伴う場合として以下の項目があげられています。

・単語の読みの正確さの障害
・読み速度と流暢性の障害
・読解の障害

2WHO(世界保健機構)の診断基準ICD-10(2,3年後改定予定)

・特異的読字障害Specific Reading Disorder
・読みの到達度が知能・年齢・教育からの期待値より低い
・読みの理解力、読みによる単語認知、デコーディングに困難さが見られる
・読みを必要とする課題の困難さ、綴字(書字)障害の併存、言語の遅れの既往がある

ディスレクシアの関連障害・二次障害

ディスレクシア症状は脳活動の問題により生じますが、それはディスレクシアだけではなく、他の発達認知障害と関連しているケースが多く報告されています。

また文字の読み書きが出来ないことで、学業で自信を失ったり、いじめられるなどが原因で、二次障害としてメンタルヘルスの問題からの不登校などが考えられます。

他の発達障害との重複(関連障害)

ディスレクシアでは、ADHD(注意欠陥多動性障害)やASD(自閉スペクトラム症)など発達障害と関連した症例が多く報告されています。特にADHDとの重複(オーバーラップ)が注目されています。

米国の調査ではディスレクシアの12〜24%がADHDであり、逆にADHDを持つ人々の最大35%がディスレクシアの傾向を示すといわれています。

また米国精神医学会の診断基準(DSM5)では、ディスレクシアは学習障害の1つとして分類されています。

ディスレクシア以外の学習障害(計算障害)なども重複していることがあります。

二次障害(メンタルヘルスの問題)

ディスレクシアでは、読み書きの困難から、学業がついていけずに鬱症状など二次障害を誘引することもあります。症状に対する周囲の理解と支援が二次障害の併発を防ぎます。

文字の読み書きが苦手なのは本人の努力の問題ではなく、脳の個性の問題であることを理解して、周囲が支えることが大切です。文字の読み書きを改善させる介入アプローチも重要ですが「普通」を目指すのではなく、その子、その人の脳と認知の個性に併せた学び方、生活、仕事の選び方を尊重することが二次的問題を防ぎます。

当教室が行うディスレクシア訓練法について

当教室ではディスレクシアが弱い「音韻処理」のアプローチに加えて、触覚ルートで文字の形状、文字列の認知を促す訓練を行っています。

具体的には国内の多くの児童に対して行われているT式仮名音読訓練を、従来の多感覚法訓練を改良した触るグリフと並行して行う事で、音韻サイドと触覚ルートの2側面からアプローチを行います。

ディスレクシアが抱える「視覚ルート⇒音韻表象⇒視覚辞書」という認知プロセスの問題を「触覚ルート⇒視覚辞書⇒音韻表象」という迂回的な方法で解決することで、より効率的に「読字」の脳内ネットワークを促進形成させます。

触読版(サワルグリフ)

当教室オリジナルプログラムになります。触覚認知を介してディスレクシアの方が苦手とする脳内の「視覚辞書(機能)」を促すことで、文字のカタチ、単語の綴りの視覚認知を促します。日本語(仮名)だけではなく、英語(アルファベット綴り)の文字認知の促す効果が高く、成人の英語ディスレクシアには高い効果を示します。

T式(鳥取大学式)仮名文字音読訓練

鳥取大学で研究開発された、音韻意識に働きかける日本で最も代表的な「読み」の訓練法です。T式訓練法では、読み(音)と文字の対応関係を強化する「解読訓練」と、単語の認知を促す「語彙訓練」に分けて2段階式の訓練を行います。高いエビデンスが確立された訓練法になります。

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