ディスレクシアは遺伝するのか?
【記事執筆者】
株式会社 宮﨑言語療法室 言語聴覚士 宮崎圭佑
学習障害(ディスレクシア,算数障害) への触覚学習利用を専門としています。【経歴】京都大学大学院 人間健康科学系専攻 脳機能リハビリテーション科学分野卒業,医療機関,京都大学医学部付属病院 精神科診療部を経て宮﨑言語療法室(株)を開業
ディスレクシアは、視覚や聴覚などに障害が無く、全般的な知能も保たれているのに、特別に「読み書き」が苦手な学習障害(LD)の1つです。
発達性読み書き障害と訳される事もあります。
また、文字の形を覚える事も苦手で、カタカナが定着しにくかったり、漢字をくり返し書いても覚えにい事が特徴です。学業不振から不登校にも繋がりやすい事も知られてきました。
原因は読み書きに関わる脳機能特性にあります。文字と音を結びつける機能(デコーディング)の苦手さや、文字列を単語として一纏めに記憶形成して読む事の苦手さがあげられます。文字の形の記憶形成や想起も苦手としています。
教育や親の育て方が原因ではなく、持って生まれた生物学的な機能特性によるものだと考えられています。
ディスレクシアの特徴
・視覚や聴覚の障害、知的障害などは無い
・著しく「読み書き」が苦手
・流暢に読む事が苦手(読むと疲れる)
・文字を覚える事が苦手(漢字など書いても覚えにくい)
・脳機能の問題(デコーディング、単語形態認知、文字の記憶形成と想起困難
・親の育て方や教育が原因ではない。持って生まれた脳の個人特性が原因
この記事では「ディスレクシアと遺伝」について、現在、分かっている範囲で解説します。
ディスレクシアは遺伝するのか?
まず、発達分野において「遺伝」という言葉は2通りの意味で使われている事の留意が必要です。
1つは「持って生まれた生物学的な資質」という意味。もう1つは「親から伝わる形質」という意味です。
ディスレクシアは、育て方や教育の影響でなるわけではないので、前者の「持って生まれた生物学的な資質」である事は間違いありません。
そして一定の確率で「親から伝わる形質」、つまり遺伝傾向も知られています。
もちろん、ディスレクシアは親から遺伝ではなく、親族にディスレクシア特性の人がいなくても、ディスレクシアである方も沢山います。
ディスレクシアの遺伝率
ディスレクシアは読み書きに関わる脳の「個人特性」が影響する問題です。
ですので、顔や体型が、親と似るのと同じように、脳の個人特性も似てくる傾向にあります。近年の研究では、ディスレクシア特性を、親から引き継ぐ確率は「40%~60%」と報告されています。これは、親と全く同じような読み書き困難症状が子供に引き継がれるわけではありません。
ディスレクシア症状の程度や特徴も濃淡を持つ「スペクトラム」ですので、親から子供にどのような特徴が、どの程度で引き継がれるかはケースバイケースとなります。(例:親は重度~中等度、子供は軽度~グレーなど)
ディスレクシアと関連ある遺伝子
ディスレクシア特性の形質発現と関係があると考えられている遺伝子として、DYX1C1、ROBO1、DCDC2があげられます。(特にDYX1C1は有名で、言語処理領域の繊維連絡に関係が深い遺伝子だと考えられています)
ただし、人間の脳神経系は様々な遺伝子の複雑かつ多段階な発現で形成されますので、たった1つの遺伝子のみが影響して、症状が現れるとは限らない事にも留意が必要でしょう。また、日本語圏のディスレクシアではDYX1C1を持つ人は少ないことも知られています。
イタリア語圏など、ディスレクシアの出現率の低い国では、関連遺伝子を持つ人でも、ディスレクシア特性が現れない人が多いことも報告されています。まだまだ、特定の遺伝子だけでディスレクシアの発現を説明することは難しいのが現状です。
ディスレクシア特性と遺伝の本質的な考え方
ディスレクシアは、そもそも「病気」なのでしょうか?人間が文字を使い始めたのは、約5500年前だと知られています。当時は粘土板に絵のような模様を刻んで、家畜の頭数などを記録していました。
長い人類の歴史の中で、文字を読み書きは、つい最近始まった行為なのです。また文字を持たない文明も沢山ありました。たまたま一部の文字を持つ文明(主に西欧文明)が、その他多くの無文字文明よりも、記述による記録などの面から戦争や備蓄に有利だったので世界を制覇しただけに過ぎないのです。
ですから、つい最近始まった行為である文字の読み書きは、人間の本能として組み込まれたものではないので、少し無理な脳の使い方をしています。脳の中の視覚や音に関わる様々な領域を強引に繋げて、統合的に処理をしているのです。
当然、人類の中には文字の読み書きが苦手な人も沢山います。これは自然なことです。今の時代は、文字の読み書きが重要になってきているので、読み書きに向いていない脳の個性の人が「ディスレクシア」と言われているだけなのです。
昨今では、文字だけではなく、動画など、様々なメディアでコミュニケーションが行われています。何かを学ぶ時も、文字を読むよりも、youtubeなどの解説動画を視る事も多いのではないでしょうか。必ずしも文字が常に重要とは限らず、ディスレクシアもいづれは、病理現象でなくなるかもしれません。
また、全てではありませんが、文字の読み書きが苦手な人は、視空間認知や全体像の俯瞰など、優れた認知特性も持つ傾向が高い事が分かっています。人の脳機能には等価交換(トレードオフ)な性質もあるのです。
ディスレクシアは治るのか?
毎日、ディスレクシア(発達性読み書き障害)の方の電話相談を受けていると「ディスレクシアは治りますか?」と質問される事が多いです。また病院での受診や学校で「高学年になると治らないと言われました」とお話を聞く事もあります。
ディスレクシアは「生まれ持った脳の特性」により読み書きに困難を抱える状況を指し示すので、一般的な「病気」の文脈で、ディスレクシアが「治る/治らない」という表現は、ややミスマッチであると考えています。一方で、持って生まれた読み書きの特性は、生涯を通して固定的なものでもありません。
近年の研究では、読み書きの苦手さは、早期トレーニングによって、脳機能の変化により、程度は改善することも報告されています。海外の研究では、読みを獲得する早い時期に,音韻に関わる学習を介入指導することによって,代償的・補完的な領域ではなく,本来読みに関与する領域の機能が利用される可塑的変化も報告されてます。
とはいえ、生まれ持った読み書きに困難を抱える脳の特性が、非ディスレクシアの方と全く同じになるわけではありません。
これら「トレーニングによる機能改善」に加えて「本人の認知特性に合う勉強方法」「ICT機器の利用」も組み合わせて、読み書きの「総合的な負担」を減らしていく事が大切になります。(読み書きの負担が原因で、学ぶ事自体が嫌いにならないようにする事が大切です)
触るグリフを利用した機能改善トレーニングについて
ディスレクシア(発達性読み書き障害)の介入法において、触るグリフは「読み」に関しては、文字と音の連合記憶形成と、文字形状と文字列のチャンク(記憶塊)形成を介しての、①機能改善トレーニングを目的に作られた教材です。
その一方で漢字などを覚える「書字」に関しては手で触れて学ぶ事で触覚ルートを介して視覚性記憶の弱さを補う事ができるので、②認知特性に合わせが学習法の要素も持ち合わせています。⇒ 詳しくは「触るグリフの効果に関する体験談」を参照
代表 宮崎 圭佑 【資格・学位】 言語聴覚士免許 (国家資格) 修士号 (京都大学) 【経歴】京都大学大学院 人間健康科学系専攻 脳機能リハビリテーション科学分野卒業, 京都大学 医学部付属病院 勤務を経てサワルグリフ開業
触るグリフにご興味がある方はお気軽にご連絡ください。利用相談を受け付けています。主宰言語聴覚士 宮崎が対応します。
・読み書き障害の相談
・利用の適用になるか知りたい
・使い方や効果を知りたい
・クリニックや教室に導入したい
・研究などで利用したい
・取材のお申し込み
触るグリフ利用体験談(Twitter)
触るグリフは個人零細で開発販売しているため、広告宣伝費をほとんど使っていません。SNSを含めた口コミや広まっています。Twitterに投稿された触るグリフの利用体験談の一部を集めてみたので、参考にしてください。
お電話でのご相談
電話可能な時間は、月曜〜木曜の10時〜17時までとなります。
(この時間内の場合は、お電話の方が助かります)
メールフォームでのご相談