ADHDの英単語学習と触るグリフの利用について

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【記事執筆者】

サワルグリフ代表  言語聴覚士 宮崎圭佑

学習障害(ディスレクシア,算数障害) への触覚学習利用を専門としています。【経歴】京都大学大学院 人間健康科学系専攻 脳機能リハビリテーション科学分野卒業,一般医療機関,京都大学医学部付属病院 精神科診療部を経てサワルグリフ開業 


 


ADHDは不注意,多動,衝動性を主な特徴とする生まれ持っての脳の特性です。有病率は3%〜5%ほどと言われています。男児は女児よりも3倍〜5倍多いことが分かっています。

主な原因は前頭葉,線条体,側坐核などの脳のドパミンやアドレナリンなど神経伝達物質の部分的な不足があげられています。(一部、神経伝達物質由来とは異なる原因も存在します)

 

前頭葉は注意機能や実行機能(計画性)に関わり、線条体は大脳基底核の一部で、手先の微細な「運動制御」などに関わっています。また側坐核は、モノゴトの「やる気」などに深く関わっています。

ADHDの症状は、人それぞれ違いますが、上記の脳の何処かで神経伝達物質の不足問題が生じた場合、部分的な機能の弱さとして、不注意や多動,衝動性の行動が現れます。

 

この記事では、ADHDの視覚注意機能の弱さに関係した英単語学習の問題を取り上げたいと思います。また触るグリフ「フォニックス対応,英語綴り(スペル)シート」を利用した学習法も解説します。

 

ADHDの英単語のスペルミス問題

 

ADHDの方は、英単語の細かい綴り(スペル)に能動的に注意を向けて、正確に覚える事が苦手という特徴があります。(全てのADHDではなく、個人差はあります)。ADHDではない人に比べて英単語のスペルミスが多い特徴があると私は考えています。

 

ADHDのスペルミスの特徴

【置換】

volume→vorume

Dyslexia→disrexia

【脱落】

communication→comunication

特徴としては単語の「語頭」と「語尾」は比較的分かりやすくて、注意を向けて記憶できていますが、左右に文字が連なって、注意に向けにくい英単語の「真ん中(語中)」をらへんの綴り(スペル)は、似た読み方のアルファベットに置き換わる(置換)、見落とす(脱落)する傾向があると私は考えています。

 

ADHDのスペルミスの原因メカニズム

ADHDのスペルミスの原因は、英語を苦手とする日本人全般に言える性質です。(ADHDの方は、そうでない方に比べて影響を大きく受けます)

 

英語の「文字と読み」の複雑さの問題

英語は文字と読み方(音)の対応が複雑な言語です。これが正確なスペルの認知に大きく影響を及ぼします。

例えば「りんご」という単語だと「り」「ん」「ご」という仮名をそのまま並べて読めば良いだけです。しかし英語の場合は「apple」という単語はアルファベットの読みとは異なる単語としての読みが紐付いています。

シンプルな対応関係に慣れている日本人は、英単語の複雑な読みを苦手としてています。ですので、英語の読みに対応した綴り(スペル)を覚える事が苦手です。

この問題はディスレクシアの英語学習の妨げとして、よく知られていますが、綴り(スペル)の細部に注意を向けることが苦手な、ADHDの方の英語学習にも影響を及ぼしています。

 

視覚注意の不正確さと「ローマ字読み代償」の問題

 

【置換】

le→re,sh→si

【脱落】

aer→ar

 

ADHDのスペルミスは、視覚注意の不正確さにより英単語を覚える「記名⇒保持⇒想起」の記名の段階で、正しくスペルが覚えられていない事に原因があります。

つまり全体としては「なんとなく」英単語を覚えてはいるので、英語の「大まかな読み方」と「語頭・語尾」のアルファベットから、何となくスペルの全体像が思い浮かびます。

しかし、真ん中部分など、スペルの記憶が曖昧な部分は、ローマ字読みの似た読み方(音)のアルファベットを当てはめて、代償的に思い出しているのです。

スペル記憶の不正確さを、ローマ字の知識を当てはめて補っている状況があります。

 

触るグリフ(触読学習)を利用した英語スペル学習

 

ADHDの「細かいスペル(綴り)に能動的に注意を向けて、正確に覚える事が苦手」という視覚認知プロセスの弱さに対しては、触るグリフの「見ながら触れて音読する」英語綴り(スペル)学習がとても有効です。

 

触覚認知の「能動的探索」で視覚注意の不正確さを補う

 

視覚は一度に多くの情報を得るために、対象範囲を絞る「選択注意」が求められます。細かいスペル構造に注意を向けるには、その都度、細部への注意の選択を持続させる必要もあります。

英単語の綴り(スペル)に、能動探索的に見ながら触れて確かめる事で、触覚刺激を介してアルファベット形状の連続パターンが立ち上がってきます。

この触覚刺激の連続パターンと目で見る視覚で捉えたアルファベットの綴り(スペル)を併せることで、今まで不正確だった記名プロセスを補う事が出来ます。

 

綴り(スペル)のチャンク(記憶の塊)を作って覚える

見ながら触れて音読することで、綴り(スペル)のチャンク(記憶の塊)として記憶形成が出来ます。新しい単語を覚える時には、そのチャンクの組み合わせパターンとして覚えられるので、スペルミスを減らせます。スペルを一から覚える必要が無いので、効率的に英単語学習が出来ます。

※ 触るグリフ「英語綴り(フォニックス)触読版シート」では一定量の基本的な英語スペル(綴り)を揃えているので、良いかと思います。

 

 

触覚−視覚間の統合・増強効果

触覚も視覚も同じ3次元対象を扱うので、脳内に共通の神経基盤を持ちます。どちらの情報も外側後頭複合体(LOC)、紡錘状回を経てマルチモーダルイメージとして統合されます。

2つの異なる性質を持つ感覚モダリティを組み合わせた場合、互いの特性が組み合わさることで、記憶は精緻かつ強固になります。不正確かつ脆い視覚イメージを、手で触れて確かめる事で補強することが出来ます。

 

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