LDと向き合う: 読み書きと計算の困難から見つけた自分らしさ|のじゃさん(60代)
「大人のLD体験談」第7回目は、読み書きや計算に困難を抱える主婦の「のじゃ」さん(60代)です。主婦としての生活の中で直面する困りごと、さらにこれまでのキャリアや特性への向き合い方についてお話しいただきました。インタビュアー:Ledesone Ten
現在、LDの診断は受けていないものの、LDに似た困りごとがあるとお伺いしています。具体的にはどのような形で困りごとが登録されているのでしょうか?
LDとは診断はされていませんが、困りごとはたくさんあります。特に、読み書きや集中力に関する問題があります。
現在のお仕事について教えていただけますか?
現在は主婦で、たまに単発のアルバイトをしています。知り合いのデイサービスのお手伝いや、介護福祉士の資格を活かして登録ヘルパーとして働いたりしています。
幼少期からの学習面についてお聞かせください。小学校から高校までの勉強や学習面について、どのように感じていましたか?
私が発達障害と診断を受けたのは40代半ばです。「自閉症スペクトラム症」で精神障害手帳も取得しています。幼少期から感じていました。特に、学習面での困難さが大きかったですね。「発達障害」という言葉が広く知られるようになったのも、ここ10年くらいかなと思いますが、私が幼少期のころはそういった情報は一般的ではありませんでした。
知能テストでは問題がなかったので通常級に通っていましたが、読むことや書くことは非常に辛かったです。友人や周りからは「普通」と思われていたかもしれませんが、私自身は読んだり書いたりすることが非常に苦手でした。字が変形していたりとか、覚えたりすることも大変でしたね。
昔は子どもが多かったし、テストでは平均点を取れていたので、周りからは見逃されていたんじゃないかなと思います。ただ、周りから「普通」だとみなされていることが余計に苦しかったという思いもありました。
やはり、中学高校になって英語や文章題などが難しくなってくると、勉強についていけなくなり、どんどん学力が下がって赤点をとったりしていました。
授業中に困難さを感じる一方で、テストの際には比較的良い成績を収めていたということですね。
そうですね。そういわれれば…。何とか平均点は取れていましたね。
僕の印象としては、授業中は周囲がざわざわしている中で先生の話を聞きながら書かなくてはいけないので難しいけど、テストのときはみんなが静かなので集中できるのではないかと思いました。つまり、静かで集中できる環境であれば、読み書きに集中しやすいのかなと。
そうですね。あと、テストは準備ができるじゃないですか。小学校・中学校時代は、家でなんとかがんばって準備して、対応していたと思います。ただやはり授業中は黒板をうつしたりするのが難しくて、後から友達にノートを写させてもらったりしていました。
読みについても、実際の理解力は欠けていたような気がするんですが、テストは家で準備したり練習したりしたことが出るので、小・中学校はそれでなんとかやり過ごしていました。
家庭でのサポートなどはありましたか?
特に自分の困りごとに対して親からのサポートはほとんどありませんでした。成績が平均点に達していないと、非常に厳しく叱られ、それが怖くて、平均点を取らなければというプレッシャーの中で勉強していました。しかし、どれだけ努力しても平均点以上は取れなかったので、努力が無駄だったのかと思うこともありました。
他に、好きだったことや得意だったことについて教えてください。
発達障害の影響かもしれませんが、運動や手先の器用さに苦手意識がありました。
工作や図工、音楽もあまり得意ではありませんでした。
好きなこと……今思えば、特に何かを好きだと感じることは少なかったように思います。
読み書きがあまり得意ではないけれども、簡単な本を読んだりはしていました。趣味「読書」にしていた気がします。
読み書きが苦手なのに読書はお好きだったんですね。
昔は暇なときにやることが本を読むくらいしかなかったんですよ。
僕は本を読むときは同じ本を何度も読むんですね。もしかしたら、読み飛ばしをしていたのかもしれないんですが、読むたびに新しい発見やおもしろさが見つかるので楽しかった思い出があります。
わかります!私も同じような経験があります。親からは「また、この本?」と言われたりもしていました。読書感想文もすごく苦手でしたね。理解できているのか、できていないのかわからないような文を書いたりとか、あとがきを丸々写したこともあります(笑)。
それ以外に困ったと感じたことはありますか?
私はAPD(聴覚処理障害)の疑いもあり、聞き間違いが多いと感じています。読み書きだけでなく、聴覚的な問題も関係しているかもしれないと思うのですが、さらに、急いで文字を書くときに自分でも読めないような文字を書いてしまうこともあって。
それが合わさると、例えば話を聞きながらメモを取らなくてはいけないときなどは、後から読み返すと自分でも全くわからないメモになっていたりします。走り書きができないというのに大人になってから気が付いて、困っています。
あと、役所からの通達とか回覧板などの文書でも、読み飛ばしてしまって大事なお知らせがわからなくなってしまうこともあります。必要事項を記入しなくてはいけない文書を書くときは、いつも何枚も記入用紙をもらって書き間違えてもいいようにしています。
そういう意味で、大人になってからAPDも含めたLDの困難さを強く感じています。診断としては「発達障害」なんですけど、個人的にはAPDやLDなども特性として持っている可能性が高いなと感じています。
卒業後の仕事についてお伺いします。高校卒業後はどのようなお仕事をされていたのでしょうか?
高校卒業後、少しだけ電話交換手として働いた後、キーパンチャー(キーオペレーター)として伝票入力の仕事をしました。データ入力の単純作業なので、比較的長く続けていました。それからは主婦業で、たまに工場の単純作業を行ったりもしながら、現在は介護の仕事をしています。
これまでのキャリアの中で「これは自分に合うな」という仕事はありますか?
私的には卒業後は事務員として働くことが希望でした。ただ、今の事務のイメージと違って昔の「一般事務」は電話応対や伝票や書類作成などを手書きで行わなくてはいけなくて、読み書きが正しくできることは必須のスキルだったんですよね。そういう点で、会社からは「一般事務は難しい」と言われてしまって。
キーパンチャーのデータ入力は単純作業が多く、比較的続けやすかったです。
ただし、速さが求められると難しいと感じることもありました。
あと自分に合っているかはよくわからないのですが、今携わっている介護の仕事は対人の仕事なんですが、もう少しやってみたいなと思います。
ただ、不特定多数に臨機応変に対応しなければならない場合はちょっと難しいかなと思いますが、介護の仕事は一対一での接し方が多いので、なんとか対応しています。
現在の介護のお仕事で、特にどの部分が自分に合っていると感じますか?
特に訪問介護の場合は1対1ですし、自分のペースでできるのがいいですね。周りに同僚がいないので、自分のペースで進めるのが楽です。利用者さんに合わせる必要はありますが、周囲に干渉されることがないので、自分に合っていると感じます。
訪問介護の仕事で困ることはありますか?
訪問勤務記録はありますが、ほとんど定型文が決まっているので、それに従うだけで良いので、特に困ることはないですね。自分で文章を一から作ったり書いたりすることはほとんどなくて、わからないことがあれば、スマホで写真を撮って事業所に送ることで対応しています。
他の事務所ではスマホのアプリを使って、記録も簡単にできるので、本当に仕事が楽になりました。
今はスマホがあるので本当に楽になったな~!と感じています。仕事に関してはLDだから困るということは、今はほとんどありませんね。
生活面での話に移りますが、金融機関や市役所での手続き、買い物など、生活上で困ることはありますか?
重要な文書は理解するのが難しいことがあります。そういう場合は、家族や支援者に手伝ってもらうことが多いです。自分で書かなければならない書類もありますが、失敗することが多いので、失敗してもいいように先に多めに用紙をもらってくるようにしています。そのほかは本当に周りにサポートしてもらっています。
買い物についても、数字の計算は苦手です。買い物は、たくさん失敗してきたので今はもう、生活圏内の決まった場所で行うようにしています。ネットでの買い物も怖いので、ネット通販はあまり利用せず、限られたところで買い物しています。
もしよければ、昔の買い物の失敗についてお聞きしたいです。お話ししてもいいですか?
お金の感覚がなく、数字の感覚も弱いんです。そのため、買い物をしていると気づいたらすごく高い請求書が来たりしました。自分ではそんなに買い物をしたつもりがないのに、請求が来てびっくりすることがありました。
なるほど。数字やお金の感覚が弱い特性に対しての解決策として、買い物をする場所を固定するという方法ですね。生活の中で、どんなスマホアプリや便利なツールがあればもっと困りごとが減ると思いますか?
使いこなせるかどうかは問題ですが、通知機能があれば便利だと思います。例えば、お金の使い過ぎや買い物の際のアラーム通知があると助かります。
今も時間を忘れてしまうことが多いので、アラーム機能を活用しています。すごく便利に使えているので、いろんなことに対しての通知機能やアラームがあれば良いと思います。ちょっと漠然としていますが。
例えば、スーパーで1週間分の食材を買うときに、予算を設定しておけば、その予算に近づくと通知してくれるという機能とかいいですよね。他に便利だと思うツールやアプリはありますか?
もうすでにありますが、読み上げツールも役立つと思います。特に読解力が弱いので、長い文章を簡潔に要約してくれるツールがあれば助かります。
文章を読み上げるだけではなく、簡単に要約してわかりやすくしてくれるツールがあれば、うれしいですね。
今まで出会って良かった人や、特に影響を受けた人がいれば教えてください。
そうですね、出会って良かった人というと、夫ですね。
夫がいなかったら、今の自分はなかったかもしれません。
初めは、「どうしてできないの」って言われていた気がしますが、「この人はこういう感じなんだな」と理解してくれているようですね。もうあきらめたというか(笑)。
いい意味であきらめてくれている感じですね。
例えば、文章が多い複雑な書類などは、自分でやる方が早いというスタンスで対応してくれています。以前はお互いに言い合ったりしていましたが、今はいろいろな面で理解してくれて、助かっています。
今後、LDを持つ子供たちに向けて、何かメッセージをいただけますか?
あまりがんばりすぎず、良い環境で育ってほしいと思います。周囲の環境が良ければ、本人が努力できない部分で潰れてしまうことが少なくなると思います。
自分で全てを背負わずに、良い環境に身を置いてほしいと思います。周りがサポートすることで、のびのびと成長できると思いますし、そういう環境を求めていってほしいです。
他に追加で言っておきたいことがあればお願いします。
LDやそれに関連する認知がまだまだ不十分だと思います。私がLDについて知ったのは10年以上前、発達障害センターで診断を受けた頃です。
その当時は「発達障害」という言葉が一気に広まった時期で、書籍やネットでたくさんの情報を探すことができましたが、現在は少し認知度が下がっているような気がしています。
情報は広がっているかもしれませんが、認知度はまだ十分でないように感じます。
もっと認知が広がって、さまざまなツールや支援が充実していくことを期待しています。